君とゆっくり恋をする。Ⅱ【第6話完結しました】(短編の連作です)
仕事をして冷静になり、幾分まともな思考ができるようになって、ふと先ほどの結乃とのやり取りを思い出す。そして、思わずハッとした。
——まさか、片桐さん。誰かほかの男と花火大会に行くんじゃ……!?
そういえば総務には、やたらと馴れ馴れしく結乃にバレンタインのチョコをねだっていた北山とかいう男がいた。あの男がもしかすると結乃を強引に誘ったかもしれない。
その疑念が頭をよぎると、また敏生の胸の鼓動は早くなる。だけど、大きく呼吸を繰り返して何とか冷静な思考を維持することに努めた。
——いや、片桐さんは『取りまとめ役』だと言ってたから、少なくとも二人きりではない。
と思ってみたが、複数人のグループの中にも男がいる可能性があるから、やっぱり敏生は落ち着かない。もやもやする気持ちは、敏生を深い後悔の淵へと引きずり込んでいく。
——『またの機会』じゃなくて、他の空いてる日を聞いて、食事の約束だけでもすればよかった……。
花火の日のデートは駄目でも他の日に二人きりで会うことができれば、それだけで敏生の心はきっと浮き立ったことだろう。