君とゆっくり恋をする。Ⅱ【第6話完結しました】(短編の連作です)
いつもの柔和な表情はそこにはなく、憔悴していると言っても良いほどのやつれようだ。
「……お疲れのようですね」
隣に座りながら、敏生は古川さんに再度声をかけた。
敏生に気づいた古川さんは、いつものように微笑みを浮かべようとしたけれども出来なかった。取り繕うことを諦めて、ため息をつく。
「夜……、眠れなくてね」
そう言う古川さんの雰囲気を、敏生は敏感に察知する。今自分が心の中に抱え、苛まれているモノと、同じニオイがする……と。
——何か、夜も眠れないほどの悩みでもあるのかな?
敏生はそう思ったが、それを口に出して問うことも憚られるほど、古川さんの様子は酷かった。
「夜は眠れなくて、昼は仕事がはかどらなくて……、こうやって休日出勤してるんだけどね」
古川さんの抱える仕事は、『はかどらない』なんて言うことは許されないほどの量だ。それに完璧を求められる。常にそれらを抱えるプレッシャーとストレスは、どれほどのものなのだろう。
「手伝えることがあったら、何でもアサインしてください。古川さんのためなら、何でもします」