君とゆっくり恋をする。Ⅱ【第6話完結しました】(短編の連作です)
元気づけるためだけの言葉ではなく、敏生は本心からそう思った。古川さんは常日頃それだけのことを、部下に対してもしてくれていた。
「……うん、ありがとう。優秀な君にそう言ってもらえると心強いよ」
古川さんは精一杯の気力で笑顔を作ってくれたが、それは却って痛々しく感じられた。
サクセスストーリーを体現しているような古川さん。敏生も彼を目指しているようなものだけれども、あんな姿を見せられると考えてしまう。
あれが自分の目指している姿なのだろうかと。あれが本当に、古川さんの求めていたものだったのだろうかと——。
夏の長い日の太陽が傾きかけた頃、敏生は帰ろうと思い立つ。花火大会のラッシュに巻き込まれる前に、家に帰り着きたかった。
するとその時、いつものスーツではなくお洒落な服に身を包んだ河合がオフィスへと入ってきた。
敏生の存在には気づかず、自分のデスクにある資料を引っ張り出し何かを確認すると、スマホを取り出して電話をかける。英語で会話しているところをみると、海外から問い合わせが入ったのかもしれない。
この河合が精鋭たちの集まる営業1課に配属されているのは、語学が堪能であることにほかならなかった。