君とゆっくり恋をする。Ⅱ【第6話完結しました】(短編の連作です)
・敏生、参上
その時だった。
「こちらでございます」
と店員に案内されて姿を現したのは、河合……ではなく……、
「………!!!」
その場にいた全員が、同時に息を呑んだ。
ほの暗くなった屋上ガーデンのお洒落な照明に、ふんだんに配された植物の緑が照らし出される。その中に立つ敏生の姿は、真夏の夜の熱気を感じさせないくらい清々しく、誰もが見とれて言葉を逸するほど麗しかった。
「こんばんは。河合に急用ができたので、代わりに来ました。営業1課の芹沢敏生です」
驚きの沈黙が漂う中、敏生は礼儀正しくお辞儀をした。その立ち居振る舞いの完璧なこと。一瞬でその場にいた男たちを凌駕してしまう。
普段は、合コンはおろか部署の飲み会にも顔を出さない敏生。その敏生がこの場にいることが、鳥山も信じられないのだろう。目を見開いて固まっている。
そんな皆の視線を一身に受けていた敏生が、真っ先に確かめたもの。それは、サラダのトングを手に鳥山の隣に座っていた結乃の姿だった。
敏生を見つめる結乃の眼差しには、驚きだけではなく、きまりが悪い戸惑いのようなものも混ざっている。