君とゆっくり恋をする。Ⅱ【第6話完結しました】(短編の連作です)
そのとき、敏生の意識から、まとわりつく暑さも雑踏のざわめきもなくなって、世界に結乃と自分だけしかいなくなったような感覚になった。
——今だ。今、「好き」って言う時だ……!
まるで神の啓示を受け、運命に導かれるように、敏生はそのことを悟った。
そして、結乃のもう一方の手も取り、結乃の両手を自分の両手で握りなおして向き直る。
自分を見上げる結乃を見つめ、自分の中にある一番大事な真理を告げる——。
「俺は、……う……っ!」
突然敏生の喉元に、結乃への想いとはまた別の、異様な熱いものが迫り上がってきた。
敏生は思わず結乃の手を離して、両手で口を覆った。
猛烈な吐き気に襲われている。けれども、ここで吐くわけにはいかない。
敏生は口を押さえながら、結乃の側から駆け出した。花火を見上げる見物客をかき分け近くの公園まで来てみたが、そこのトイレまでたどり着けず、植え込みの陰にうずくまって吐いた。
——ああ!もう!!何やってんだ、俺……!!
先程は飲んでばかりいたけれど、胃の中にあるそれをほとんど吐き出しながら、敏生は泣きたくなった。
この時ほど、自分のことが情けなく、アホだと思ったことはない。