この恋がきみをなぞるまで。
ほとんど遊具が撤去されて空き地と化した公園を横切り、この辺りには珍しい日本家屋の立派な門構えの前に立つ。
片扉の開いた荘厳な門に顔を出し、そっと覗き込むと、庭の池のそばに女性の背中が見えた。
昔よりも身体の線は細くなっていて、いつもくくり上げていた薄いブラウンの髪は漆のように真っ黒で横に流してある。
雰囲気はまるで違うけれど、その背格好を見間違うわけがない。
「恵美さん」
懐かしさが込み上げて、声が震えた。
届かないかもしれない、と不安になる前に、こちらを振り向いた恵美さんは目を真ん丸くして、持っていたカマと軍手を落とした。
「は、芭流ちゃん……?⠀芭流ちゃんでしょう!」
落としたものには構わず、恵美さんはこちらに駆けてきた。
昔と比べてほっそりしたとはいえ、もともと大柄な恵美さんにすっぽりと包み込まれる。
「お久しぶりです」
「芭流ちゃん、よく顔を見せて」
頬をぐっと手のひらで押し上げられて、恵美さんと至近距離で顔を合わせる。
大きくて柔らかい手はわたしの頬を優しく撫でてくれた。
「本当に芭流ちゃんなのね」
深く頷くと、恵美さんは手を離してもう一度強く抱きしめる。
背中に回された手のぬくもりに、くちびるを噛む。
この手に、何度救われただろう。
あの頃、肩を支えられて、背中を摩られて、頭を撫でられて、手を引かれたこと。
ぜんぶ、覚えてる。