この恋がきみをなぞるまで。
◇
次の週末、わたしは涼花を連れて河川敷のグラウンドに来ていた。
涼花は昴流と顔見知りで、誘うと二つ返事で了承してくれた。
「昴流ー!」
わたしも涼花も野球の知識は乏しくて、日傘の下で試合の進行を眺めていた。
そのうち涼花は試合の流れを理解し始めたようで、昴流がマウンドに立った瞬間に声を張り上げる。
その声にいちばんに反応してしまい、持っていたペットボトルを取り落とす。
「芭流に言ったんじゃないんだけど」
「わかってるって」
そんなやり取りをしている間に、昴流はすうっと息を吸い込む仕草を見せると、吐き出す頃には表情を変えていた。
まだ輪郭は幼くて、丸い頬が真っ赤に染まっているのを見ると可愛らしいと思えてしまうけれど、いつの間にかあんな顔をするようになっている。
きっと、すぐに背も伸びて、芭流姉と慕ってくれることも少なくなるのだろう。
ふと、そんなことを考えて視線を巡らせると、グラウンド外の河川敷を下ったところに人の姿が見えた。
応援に来ている人は、他にもいるけれど、あの背格好は。
「……どうして」
隣で涼花が声を張っている間も、昴流の振ったバットにボールの当たる音も、溢れた歓声も、どこか遠くに聞こえた。
視線が交わった気がして、一度逸らしてから再び見遣る。
そのころには、向こうも顔を背けていた。