この恋がきみをなぞるまで。
「あいつ、いるね」
涼花も気付いたみたいで、手放しで喜ぶ昴流に手を振りながら、じっと遠くの人影を見遣る。
「なんで、こんなところに」
「桐生がいるからじゃない?⠀相手チームのベンチの端の子、桐生の弟だと思う」
「きりゅう?」
「あ、知らないか。中学の頃から城坂と仲良くて、私も三年間同じクラスだったから結構話してて。弟が野球してるって言ってたし、応援でしょ」
城坂くんの隣に立っている、桐生くんと呼ばれた人は、遠目だとどんな人なのかわからない。
学校で見たことがあるような、ないような。
「城坂くんの、友だち」
「桐生くらいじゃないかな、中学からの友だちって。他のやつらとはもう関わってないみたいだし」
「不良グループだっけ」
「そう。何でそんなのとつるんでたのかも知らないけどね」
前に涼花から聞いた話では、中学の頃の城坂くんは少し荒れていた時期があったらしい。
昔住んでいた団地の近く、あまり良くない噂の人たちが集まっていたし、そこが城坂くんの家に近いこととも関係あるのかもしれない。
何にせよ、今は関わりがないと聞いてホッとした。
応援を再開する涼花の隣で、じっとふたりの方を見ていると、不意にまた城坂くんが視線を向けた。
直線上にわたしがいる、と確信した途端、射すくめられたように動けなくなる。