この恋がきみをなぞるまで。
「あれだけ人の背中に隠れるな、目の前のもんちゃんと見ろって説教垂れてたやつがそんな様かよ」
そんなことは言った覚えがない。
城坂くんの中で、わたしの言葉は随分と歪曲してしまっているのだろう。
それすら、ちがうと言えない。
「何も言わないくせに、見てんじゃねえよ」
ぐっとくちびるを噛んで、涼花の横に立つ。
どうしても、真っ向から対峙すると怯んでしまう。
強ばったわたしの顔が、城坂くんの瞳に映っていた。
その瞳の真ん中にわたしがいたって、球体の裏側には行けない。
覗き込んだ深淵の底で、城坂くんは何を思って、本当はどな顔をしているのか、わからない。
しばらく瞳にお互いの姿を映していたけれど、不意に逸らされた視線が、涼花にしっかりと握られた手に留まる。
「守ってくれる友だちができてよかったな」
皮肉っぽく言って、城坂くんは背を向けた。
その場にへたり込むと、すぐに涼花が支えてくれる。
「涼花、あのね」
「うん。わかってる」
「そんな風に、思ってないよ」
「わかってるって」
大切な友人だといえる唯一の涼花を、わたしへの侮辱にのし上げてしまう城坂くんへの怒りさえ、喉奥に留まってそのうち胸の底に沈む。
守ってくれる友だち。
涼花をそんな風に思ったこと、一度もない。
真っ白で柔らかな真綿から、時期を待たずしてふるい落とされたわたしのような人は、否が応でも自衛の術を身につけないといけなかった。
大袈裟なんかじゃなくて、そうしないと生きていけなかった。
いつからこんなに、弱くなったのだろう。
城坂くんとわたしが、ただ喧嘩別れをしただけの幼馴染みでないことは、涼花だってもう気付いてる。
この町に戻ってきて、城坂くんと再会して、後悔して。
でも、涼花と出会うこともなかったと思うと、ただ、わたしが間違っているだけのような気がしてしまう。
こんなに、弱い人間じゃなかったのに。
今、強さのある人のことが、羨ましくて、仕方がない。