この恋がきみをなぞるまで。
居ても経ってもいられなくなって立ち上がろうとしたとき、彼女が一際大きな声を上げた。
甲高い金切り声と豹変した様相に、持ち上げかけた腰をそっと下ろす。
「好きな子がいるならそう言ってよ!」
落ち込みきった先で吹っ切れたのだろうか。
息巻く彼女はあまりにも早口で、ほとんど聞き取れない。
思い上がるな、顔だけの性悪男だとか、聞こえただけでもひどい罵倒。
ひとしきり吐き出し終えたあと、荒い呼吸だけがその場に残る。
かと思うと、一拍置いた彼女が再び口走る。
「福澄さんでしょ」
「……は?」
ふくずみ……福澄?
突然飛び込んできた四文字に、一瞬時間が止まったと錯覚する。
しばらく黙っていた城坂くんが間の抜けた声を零したのも、彼女の言うことが見当違いの度を越していたからだろう。
「なあ、今のが冗談ならさっさと訂正しろ。もしも、万が一、本気だったなら二度と口にするな」
「だって、城坂くんから近付くのは福澄さんくらいでしょう?」
「は? 誰があんな奴に近寄るんだよ」
「好きなんじゃ、ないの……」
城坂くんに気圧されたのか、ぼそぼそと彼女が言うと、長くて重いため息が聞こえた。
「それは、ねえな。見ていると腹が立つだけだ」
声は怒りを纏っていて、目の前にいない人間をそこまで言える理不尽さに、こめかみに当てていた手で耳を塞いだ。
聞いていられない。聞きたくない。
城坂くんがわたしを本気で嫌っていることは、わたしがいちばんよくわかっている。
改めて突きつけられる必要なんてないほど、嫌というほど、思い知ってる。