この恋がきみをなぞるまで。
段ボールを閉じて、テープの部分を両手で押さえようとしたとき、左手に恵美さんの手が重なった。
「恵美さん……?」
「芭流ちゃん。この手、どうしたの?」
包み込む手のぬくもりに、鼻の奥がつきりと痛む。
恵美さんには、気付かれてしまうと思っていた。
ずっと、わたしを見てくれていた人だから。
「肩の怪我で、神経が損傷して……左腕全体に麻痺が残ってます」
「いつ?⠀治療は?」
「あのころです。治療は今は、してない」
あのころ、と。
それだけで伝わったようで、恵美さんはわたしの左手を少しだけ持ち上げて、祈るように両手で包んだ。
「そんなこと、どうして」
「だって、誰も……」
言いかけて、これだけは口にしてはいけないと封じ込む。
お父さんとのことで、わたしが周囲に助けを求めたことは何度もあった。
あのころの唯一の心の支柱であったこの場所では、悲しいだとか苦しいだとか、そういう気持ちを切り離していたくて、必死に隠そうとしていたけれど。
「芭流ちゃん」
「はい」
「いつでもここにおいで。待ってるから」
たぶん、恵美さんだって言いたいことはたくさんあるはずだ。
心配をかけて、何度も念押しされていたのに大丈夫と言い張って。
取り返しのつかない事態になっていたことも、知らせないまま。
それなのにただ、わたしがあのころからずっと欲していた、救われていた言葉をまた紡いでくれる。
泣きたくなるのを堪えて、ふかく、ふかく頷いた。