この恋がきみをなぞるまで。
教室中の音が、声が、一瞬鳴り止んだ。
ふっと息を吐いて、少しだけ顔を上げる。
「全員決まったけど」
バスケの希望者の一番下に青いチョークで城坂くんの名前が書いてある。
黒板に拳を打ちつけたようで、その形が薄らと残っていた。
「決まったからって叩くことないだろ」
「城坂が最後なんだから先生呼びに行けよ」
「なんで俺なんだよ」
教卓に近い席の人たちとのやり取りがあって、なんで、と言いながらも城坂くんは教室を出ていった。
もうわたしのそばにいた人たちは席に戻っていて、目の前は拓けているはずなのに、滲んでいく。
先程書かれたわたしの名前は『福づみ はる』だった。
間違っていることを、誰もきっと気にしていなくて、わたしもそれを指摘する余裕なんてなくて。
『福澄⠀芭流』と書き直された文字の一字一字が、一角一角が、息をのむほど繊細で、綺麗で。
手のひらに包んで納めて、心の隣に置いておきたかったのに。
誰かが、用意されていた用紙に全員分の名前を記し終えたようで、黒板の文字はすべて綺麗に消されてしまった。