この恋がきみをなぞるまで。
荷物を持って玄関に向かう途中、正面から歩いてくる団体を見つけた瞬間に足が止まる。
まだ暑い日が続く最中、半袖のTシャツや体操服を着たその人たちは、同じバスケのメンバーだ。
城坂くんや、他にも数人いないけれど、それは予定や部活があってこの場にいないだけで。
ほとんど毎日クラス旗の制作を手伝っているから、この時間にここにいたら、素通りしてくれるわけがない。
「ねえ、何で今日来なかったの?」
「……ごめん」
「謝るんじゃなくてさ。理由が知りたいんだよね」
先頭にいた女子のひとりが、廊下の端に避けていたわたしの前を塞ぐように立つ。
クラスの中でも気の強い子だ。
普段、全くと言っていいほど関わりのないタイプ。
「外から見てるだけでもポジションの確認とか、こっちの動きがわかるんだから。全然参加しなくて、当日どうする気?」
「そんな責めるような言い方しなくても……部活なくても全然来ない人もいるよ?⠀城坂とか」
「城坂は当日は参加するし戦力にもなるでしょ。福澄は違うじゃん」
また、わたしを置き去りにして話は進む。
間髪入れずに返事ができたらいいのだけれど、どう返せばいいのか詰まるような言葉が次々に送られる。
「理由があるって言うなら、同じチームメイトには伝えておくべきじゃないの?」
その言い分は、ごもっともだと思う。
何も言えない、示さない、こんな自分に腹を立てるのだって当然のことだ。
でも、ずっと誰にも言わずに隠してきたことを、そんなに簡単には明け透けにはできない。
大谷さんのように、人それぞれ事情があること、それは伝えにくいことかもしれないと想像ができる人、この空間にはいないんじゃないかな。
誰も、助けてはくれない。
そう気付いた瞬間、全身の血液が氷ついたように冷たくなって、末端から力が抜けていく。
へたりこみそうになって咄嗟に手を着いたのが壁のある左側だったせいで、引き攣るような痛みが駆け抜けて、支えのないまま膝をつく。
「は?⠀ちょっと、なに?」
「相原が脅すからだろ」
「なによ、脅すって。ねえ、大丈夫?」
相原さんがわたしを引っ張り起こそうと掴んだのが、よりによって左腕だった。
腕の曲げ下げは、よほど調子の悪い日でなければ問題なくできる。
ただ、肩から動かすような挙上はちがう。
比べものにならない、引き裂くような痛みが走る。