この恋がきみをなぞるまで。
「い、っ……!」
「えっ、なに、何なの?」
わたしが反射的に身を固くして仰け反ったから、相原さんは放り出すように腕を解放する。
左腕を押さえて痛みに耐えていると、相原さんや周りにいた人たちの間でどよめきが走る。
保健室とか、先生とか、断片的には聞こえるけれど、それに対して大丈夫だとか言う余裕はなかった。
じっとりとした汗が額から落ちていく。
辛うじて発した声も届かなくて、瞼を閉じたとき。
「芭流!」
聞き慣れた声が耳に届いたと同時に背中にあたたかい手が添えられる。
「あんたたち、芭流に何したの?」
「何もしてない!⠀話してたら、急に座り込んで……」
「話してただけでこんなになるわけ……芭流、芭流、わかる?」
必死に呼びかけてくれる声に、小さく頷く。
来てくれた、助けて、くれた。
「すず、か」
「そう、わかるね」
ほっとしたように、ふうっと息を吐いて、涼花は相原さんたちと向き直る。
「大体わかるけど。今日はもうやめて。芭流と話すことがあるなら今度にして」
「な、まだ何も聞いてな……」
「今度にして」
涼花がきっぱりと強い口調で言い切ると、それ以上は何も言わず、皆去っていった。
廊下の風が抜けていって、重いような苦しいような空気をさらっていく。
涼花は、強いな。
わたしは何も言えなかった。
どうしてこんなに弱いんだろう。