この恋がきみをなぞるまで。
腕全体にまとわりつくような痛みはあるけれど、右手で肘を支えながら少しずつ下ろすと、だんだんと波が引いていく。
自分の腕を支える様子を間近で見ている涼花は黙っていながらも、ずっと傍らで待っていてくれた。
「涼花、わたしね」
わたしの弱さはきっと、わたしが持って生まれて、強さに育てられなかった未熟な心だと思う。
守りたいものが自分の内側にしかなかったから、自分の心だけを守ってきたから。
人のためにやさしさを、つかえない。
「この腕、だめなの」
もうずっとだめだった。
諦めているし、これからも元通りになることなんてない。
でも、大切にしようって思ってた。
あの頃のわたしを、守った証でもあるから。
「もう、いらない」
左手の甲にぐっと爪を立てて抉るように引き抜く。
わたしの丸い爪では皮膚を裂けなくて、悔しくて、もう一度爪を刺す。
「芭流、やめて」
「やめない」
「やめてよ、芭流。痛いよ」
一本一本、解くように指を開かせて、かわりに涼花の手と繋がった。
ぎゅっぎゅ、と強弱をつけて握られて、そのぬくもりが芯まで伝わってくる。
汗ばんだ手はやさしかった。
「知ってたよ。芭流の左腕のこと」
「え……」
「一緒にいても上手く隠してるし、手が動かしにくいってくらいしか教えてくれなかったけど、それだけじゃないって気付いてた」
一番そばにいればきっと、所作で違和感に気付いてしまう。
だから先手を打ってはいた。手が動かしにくいと。
本当はもっと深刻なことを、涼花は知らなくていいから。
「知らなくていいとか、知る必要がないとか、言わなくていいじゃなくて」
涼花の悲しそうな顔を見たのは初めてだった。
わたしがこんな顔をさせていると気付いたときには、涼花は握ったままの手を持ち上げて、祈るように額につけた。
「私が知りたいから、芭流が嫌じゃないなら、教えて」
委ねられてやっと、この胸を歪ませていた気持ちが滑り落ちていく場所を見つけた。
今、乞われてやっと、伝えられると安心した。
そこからはもう、止まることなく。
涼花の知りたいと言ったことすべてを話していた。