この恋がきみをなぞるまで。
ずっと黒板の文字を見ていたかったわたしの手を引いて、城坂くんは体育館へと向かった。
外で待機しているグループの中に自分のクラスを見つけたと同時に手が解かれる。
「おっそい!⠀千里、結局練習一度も来なかったんだから試合前くらい余裕持って来いよ」
「あと5分あるだろ」
「5分で何ができるんだよ……円陣組むか?⠀千里がかけ声しろよ?」
「は?⠀嫌だ」
男子のグループにさっさと合流していった城坂くんを尻目に、少し離れた位置にいる女子のグループに歩み寄る。
皆ユニフォームも着ていて、今回のルールは1チーム8人だから、あとはわたしだけ。
コートは反面なのに、人数は通常のバスケよりも多くて、少なからず接触もあるだろう。
わたしはボールを取り合う中には入れないし、奪いにもいけない、守るのだってきっと下手で、シュートなんて以ての外。
相原さんにユニフォームを押し付けられて、それを着る前に、ぎゅっと握る。
「あの、わたし言わなきゃいけないことがあって」
「今?⠀もう時間ないけど」
前の試合が少し押しているみたいだけど、直にコートは空く。
そしたらもう、話している暇なんてないから。
相原さんも他の子たちも、皆わたしを見ていた。
「左腕に麻痺があります。本当に全然、使い物にならなくて、右手だけでバスケなんてできっこないし、いても邪魔なだけかもしれないけど……」
ここにいてもいいか、と聞くのは愚問だ。
満場一致で、いない方がいいに軍杯が上がる。
切羽詰まった状況では別の言い回しが浮かばなくて、事実だけを並べてしまった。
いても邪魔、は自分で言っておいて自虐が過ぎると思う。
「わかった」
「え?」
「この前のこともあるし、体育全般見学なんて余程なんじゃないかって、ここにいる全員で話してたの。始まる前に言ってくれて助かった」
「えっと、隅っこでじっとしてたらいい、かな」
「その方が邪魔じゃない……私たちも勝ちたいから、ボールを渡せるかはわからないけど、やるだけやってみよう」
相原さんがそう言う横で他のチームメイトも各々が声をかけてくれる。
ユニフォームをいつまでも手に持っていたら、さっと奪われて相原さんに着させられて、試合が別コートになる男子を一目見る間もなく入場することになった。