この恋がきみをなぞるまで。
試合は目まぐるしく進んでいき、前半があっという間に過ぎ去る。
バスケができてもできなくて、こんな試合すぐに置いていかれてしまう。
気付いたらボールが弧を描いてゴールに吸い込まれていくのを、ぼうっと眺めては小さく拍手していたら、今の相手チームの得点なんだけどって相原さんに睨まれる。
「向こうの3番、中学までバスケしてた子だよ」
「なにそれ、ありなの?」
「まあ、今は違うからありなんじゃない?」
そんな会話を聞きながら、大して動いてもいないのに熱気に当てられて汗の流れる額をタオルで拭う。
相手に経験者がいても2点差以上には持ち込ませないのもすごいと思う。
作戦を立てる間もなく後半が始まる。
相原さんもチームの皆も、真剣で、点差が開けば食らいついてリードすれば更に突き放そうとしていて、このチームでの練習に一度でも参加していたら何か違ったのかもしれないだなんて雑念を振り払う。
時間って、こんなに進むのが早かったっけ。
残り一分を切っていて、暑くて、熱くて。
不意に相原さんと目が合う。
いつの間にか同点で、玉のような汗を浮かべる相原さんは何の合図もなしに、ボールをわたしに投げた。
「えっ!?」
ちらっと横を確認するけれど、近くに味方はいない。
ゴール前には届かない距離と角度で、触れないと、外に出る。
勝つための選択じゃないはずだ。
だって反対側には前半から相原さんと上手く組んでいた緑川さんがいる。
城坂くんに二度も言われた言葉が頭を過ぎった。
逃げんの、って。
「逃げない」
ボールの落下地点を予測したというよりは、相原さんのコントロールが絶妙で、ちょうど右手の届く位置に落ちた。
拾って投げるのは無理だ。
右手で拾ったボールに左手を添わせる。
怖いけれど、書けないと思っていた文字を書けた手だ。
できる、と考えている間にも時間は進むし人も動いてる。
押し出すような不格好なパスは、ゴール前で待っていた味方がだいぶ迎えに出てきてくれたような形で届き、放たれたシュートは見事に決まる。
はっ、と息を飲んだ瞬間にブザーが鳴り、試合は終了。
相原さんを中心にチームが集まる中、ふらりと体育館を出る。