この恋がきみをなぞるまで。
男子は既に試合を終えていたようで、覗いた体育館は別クラスが試合をしていた。
城坂くんの姿はどこにもなくて、迷子の子どものように辺りを見渡していると、バタバタと足音が近付いてくる。
「相原さん」
「次の試合すぐなのに出ていくってどういうこと?」
「そっか、勝ったら次があるんだ……」
交流試合じゃないのだから、当然のことだった。
一回の試合時間は短いけれど、きちんとトーナメントが組まれている。
「いける?」
有無を言わさず連れ戻されるような気もしていたけれど、相原さんは神妙な面持ちでわたしの返事を待つ。
さっきの、最後のパスだけが原因ではないと思う。
鈍痛が絶え間なく腕全体を占めていて、指先の震えも増していた。
「……ごめん、痛い」
「わかった、助っ人探す」
「相原さん、わたしが今日来なかったらどうしてたの?」
次の試合はすぐに始まるし、今聞くことじゃないのもわかっている。
でも前の試合だってわたしはギリギリだったし、代打を呼ぶならもうユニフォームを着ていたはずだ。
「来るって思ってたから」
「わたしでも来ないってちょっと思ってたのに……?」
「福澄、来ない気だったの?⠀まあ、来なかったら来なかったで、どうにかしてた。来たんだからいいでしょ、急ぐから、私」
さっきのこと、お礼を言う間もなく相原さんは走って行ってしまう。
自分の代わりなのだから、自分で見つけるべきなのに、今は到底動き回れそうになかった。
体育館裏で腕ではなく肩の後ろ辺りを押さえる。
「日和さんに言わなきゃなあ……」
鎮痛剤を使っている状態で腕を動かしたことを伝えたら、怒られるのは目に見えている。
痛みを何かの引き換えだとか、良いことの裏返しだとは思えないけれど、今日があって良かったとは思う。
初めてボールに触れたわけではないけれど、役割のあることを果たせるのはうれしい。
どうしても、そういう実感を得る機会は人より少ない。
女子は二回戦で負けたようで、相原さんは悔しそうにしていたけれど、激励賞で男子からは女子に、女子は男子に、バスケもバレーもフットサルも、つまりクラスメイト全員が用意していたと知って、いちばん笑っていた。