この恋がきみをなぞるまで。
『琴線』
◇
球技大会のあと、日和さんに事情を説明したら血相を変えて病院に連れていかれた。
日和さんが残業で帰りが遅い日だったから、夜間診療になったし、留守番が心配で昴流もついてきた。
結果は様子見で、酷くなるようならかかりつけ医を受診するように言われた。
「芭流姉、今日は何時に帰る?」
「今日は学校は早く終わるけど、寄りたいところがあるから何時かはわからない」
「どこに寄るの?⠀誰と一緒?」
バンッと昴流がテーブルに手をついた弾みでカフェオレが一筋零れる。
何をそんなに怒っているのか、というか心配しているのかはわからないけれど、こうなった理由は明らかだ。
時間外に病院に行くだなんて、昴流にとっては余程深刻に思えたのだろう。
平気だと何度伝えても、聞いている気がしない。
「昴流、芭流にも用事はあるよ。あまり何でもかんでも聞かないの」
「お母さん!⠀だって!」
「心配してるんでしょ、芭流もそれはわかってるよ」
そうでしょう、と話を振られて肯定するけれど、昴流は相変わらず納得していない様子で食器を片付け、先に家を出た。
「昴流のあれ、いつまで続くんだろう……」
「あの子が納得するまで続くよ、きっと。それにしても、予定や行き先まで根掘り葉掘りはちょっとやりすぎだけどね」
「はあ……今日やっぱり、昴流のお迎えに行こうかな」
ご機嫌取り、というと聞こえが悪いけれど、失った信用はこつこつ取り戻していくしかない。
用事が終わってから急げば間に合うかもしれない。
日和さんも余裕がある日だし、わたしが行く必要はないと言えばない日でもあるのだけれど。
「今日はやっと会えるんでしょう?⠀先生に」
「うん。退院したって連絡が来てたから」
数日前に恵美さんから連絡があり、先生が一時帰宅できることになったらしい。
今週末には病院に戻らないといけないから、時間のあるときに会いにおいで、と言われ、早帰りの今日がちょうど良かった。
「ゆっくり話してきたら?⠀遅くなっても迎えに行けるよ」
「そんなに遅くまではいないと思うけど……でも、うん。今日は先生とたくさん話してくる」
「喜ぶよ、その先生」
日和さんは書道教室とは一切関わりがないし、先生のことも知らない。
わたしもずっと書道のことは話していなかったし、恵美さんに会いに行ったあとに日和さんに少しだけ話していた。
「そういえば、三者面談ってそろそろじゃない?」
「え?⠀ああ、そっか、去年はあったもんね。2年生は希望があれば年明けにするって」
「あ、そうなの。じゃあまだいいか」
ぎっちりと文字で埋まったスケジュール帳の端に、芭流の面談の日程確認、と書かれていて、この時期だったことを覚えているのだなと思う。
3年次の進路に関わる面談以外で学年毎に三者面談があり、今年はいらないと勝手に考えていた。