この恋がきみをなぞるまで。
進路なんてまだ先のこと、と思っていたのに、今朝そんな話をしていたからか進路希望調査の用紙が帰る前に配られた。
提出期限は1週間で、進学か就職かだけでも埋めるようにと渡された用紙をあまり読まずに仕舞う。
「福澄はもう決めてたりする?」
「決めてないけど……相原さん、机に座らないで」
球技大会以降、時々こうして相原さんが話しかけてくる。
福澄って呼ばれるのも慣れたし、たまに課題を見せ合うこともある。
「なーんだ。すぐ仕舞うから決まってるのかと思った」
「決まらないよ。できることも限られてるし」
「……何でもできるじゃん?」
何でも挑戦することはできるけれど、仕事とか、将来に関わることとなると別だと思う。
よくわからない笑みを浮かべて楽しそうにしている相原さんと別れて教室を出ると、今度は別の人に捕まる。
「福澄さん、あのさ……」
「急いでるからメッセージ入れといて。ごめんね、桐生くん」
いつもならこんなかわし方しないけれど、一分一秒が惜しい。
えっ、と声を上げた桐生くんが、廊下を小走りするわたしの横を並走する。
「歩いたままでいいから聞いてくれる?」
「いいよ、なに?」
「今度出かけない?」
「……え?」
突拍子もない誘いに驚いて足を止めると、数歩先で桐生くんがつんのめる。
「北公園のフラワーフェスタ、知り合いのアレジメントが飾られるらしいから見に行きたくて。花とか興味ない?」
「興味というか、関心を持ってみたことはないけど、行ったことないしいいよ。涼花にも聞いてみる」
「えっ……うん、わかった。返事もらえたらメッセージ送って、じゃあ……」
振りかけた手を途中で止めて、桐生くんが目を細めて笑った。
「バスケ、見てたよ」
じゃあな、と今度こそ手を振って、桐生くんは来た廊下を戻って行った。
見てたよ、って。
どこを?⠀あれを?
見られていたと思うとこの上なく恥ずかしくて、ぶんぶんと首を振る。
ギャラリーにまで目を向ける余裕はなかったけれど、桐生くんはどこかにいたのだろう。
同時刻に城坂くんも試合に出ていたはずだし、そっちも見に行っていたのかもしれない。