この恋がきみをなぞるまで。


俯くわたしをよそに、城坂くんは去って行った。

誰もいなくなった廊下に響く足音が完全に聞こえなくなってから、詰めていた息を吐き出した。


瞼を伏せると、視覚情報が遮断される代わりに、鼓膜にへばりつくように残った城坂くんの声が滲んでいく。

せめて、わたしがたずねてから答えてほしかった。

言いたいことを汲んでくれたとは言い難い。

城坂くんの真ん中にそれしかないのだと思い知らされた。

いちばん、嫌いだと言われたみたいだ。

事実、城坂くんはきっとわたしを心の底から恨んでいる。


過去は、消せない。

あの日の、あの日々の行動を、言葉を、出来事を、城坂くんの記憶を、呼び覚ましたのだとしたら、原因はわたしだ。

一度は城坂くんの前から姿を消したわたしが、この町に戻ってきたから。


ふらつく足下に力を入れて、城坂くんとは別の廊下を歩く。

こうして、違えた道が二度と交わらなければ、城坂くんはもうあんな目をしないだろうか。

目の鋭さ、声の冷たさに、今だって震えている。

それでも、城坂くんに二度と会えなくなるのだとしたら、わたしは今すぐに振り向いて後を追う。


苦しくて、手放したいのに。

どうしてもまだ、手のひらで包んでいたい。

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