この恋がきみをなぞるまで。


冬休みの間はほとんど家で過ごしていた。

外は寒いし、帰省する場所もない。

課題は早々に終わらせて、時々涼花と通話を繋げていた。

桐生くんのことをそれとなく聞いてみたけれど、映画以降特に進展はないらしい。

涼花が桐生くんをどう思っているのかも、まだ輪郭のつかめない繊細な気持ちのような気がして、簡単に触れられなかった。


年が明けて、三が日を過ぎてから書道教室を訪ねる。

正月は教室に通っている子を集って餅つきや書き初めをしていたらしい。

先生はまた病院に戻って入院をしている。

恵美さんは、でも元気だからと言っていたけれど、あとでしっかり話を聞くと容態は芳しくないとのことだった。


書き初めの並べられた部屋を見て回る。

字は体を表すとか、書は体、と言うけれど、ここにはそれが溢れていた。

上手でも、丁寧でも、どこか目を惹く文字でも。

心を惹かれたのなら、きっとそれは身を委ねてもいいものだと思う。


城坂くんが書いた文字も見つけた。

美しい発墨と筆意のある文字に息をのむ。


書道で表現できるものには限りがあると思う。

心の震える瞬間は、ここ以外もたくさんあって、それにいつも勝るわけじゃないから。

けれど、この文字は。城坂くんの文字だけは。

ずっと、心の真ん中にいてほしい。

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