この恋がきみをなぞるまで。
先に城坂くんを乗せる車の用意が整って病院に向かって行く。
わたしは日和さんの迎えを集会所で待たせてもらっていた。
城坂くんの傷が、残る程のものだったらどうしよう。
城坂くんがこれまでたくさんのものを紡いできて、これからも結んでいく大切な手なのに。
自分を守るどころか、怪我までさせて。
過去の自分の行動が巡り巡ってわたしに返ってくるならいい。
城坂くんを傷付けるのは本意じゃないのに、わたしがいることで巻き込むのなら、そばにいることが悪だと思う。
日和さんはわたしが怪我をしているのを見て顔を真っ青にしていた。
外で一連の流れを聞いたようで、すぐに抱き締められる。
抱えて車に連れて行こうとする日和さんに、歩けると伝えながらも、足はまだ震えていて。
支えられながら乗り込んだ車に昴流が乗っていないことにほっとする。
「芭流、一緒にいたっていう男の子とは知り合い?」
「え……」
「あの辺り、不良が集まっていたんでしょう?⠀芭流がそんなところに近寄るとは思えないし、目をつけられる理由もないのに」
あそこにいたうちの一人と知り合いだったなどと言えば、日和さんをもっと心配させてしまう。
幸い、今は離れたところに暮らしているし、付近に近寄らなければ顔を合わせることもない。
しばらくは、恵美さんのところにも顔を出しにくくなるかもしれないけれど。
「わたしのこと、守ってくれたの。城坂くん。城坂、千里」
「城坂……同じ学校の子?」
「習字、一緒に習いに行ってた人」
城坂くんに非があったと僅かでも誤解されたくなくて、でも伝え方を間違えるのはもう嫌で、それだけ伝えると日和さんはふうっと息を吐く。
それからすぐの信号待ちで、肩の力をすとんと抜いた。
「知らない子に巻き込まれたんじゃなくてよかった」
「怪我、してまで守ってくれたよ」
「やさしい子なんだね」
巻き込んだのはわたし、と口走りそうになるのをぐっと堪える。
わたしにできるのは、ひたすらに黙っていることなのだと思い知る。
こんなこと、日和さんには言えないというのもあるけれど、たとえ人が変わったとしても、誰にも口にはできないだろう。
知っているから、関わっていたから、唯一城坂くんを傷付けた。
それだけが頭を占めて、日和さんの耳には届かないような小さな声を口の中に閉じ込める。
ごめんね、なんて。
届くことはないと、知っているのに。