この恋がきみをなぞるまで。
『惜愛』
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芭流へ
この手紙を直接渡すことはないから、もしかしたら、芭流の手に渡ることはないのかもしれない。
それでもいい。
芭流の目に触れなくても、いい。
芭流は優しいから、本当は、こんな手紙なんて必要ない。
けれどもし、この手紙が芭流に届くのなら、伝えたい。
どうか。
目には見えないものをこそ、信じて。
瞳に映る程度のものでは、芭流を守ってやれないから。
目の前にいて、隣にいて、いちばんそばにいたのに傷付けてばかりの俺のように。
気持ちが伝わればいいなんて、思っていない。
ただ、このあとに書くことを、信じてほしい。
芭流の、力になれるように。
いつも、芭流がいてくれたから、俺は一人ではなかったのに、芭流も一人ではなかったのに。
芭流を一人にしてしまった俺を、許さなくていい。覚えていなくていい。
ただ、ひとつだけ。
俺が芭流から奪ってしまったものを、諦めないで。
たとえそれが、芭流のためにならなかったとしても。
ごめん。
信じて、の他にもうひとつだけ。
忘れないでいてほしい。
ここに一人、芭流を想う人間がいたことを。
そして、どうか。
もう二度と、芭流と巡り会う時が訪れませんように。
城坂⠀千里
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