この恋がきみをなぞるまで。
芭流が学校に来なくなったのは、それから数日後。
同じ団地に住むクラスメイトを経由して、芭流の家庭環境があまり良くないことは教室にほとんどが知っていた。
最近は特にひどかったようで、団地内でも噂になっていたらしい。
この数日の芭流は憔悴しきっていて、どこか遠くを見つめていることが多かった。
空いた席のことを担任は何も言わず、芭流を置いて一日が過ぎていく。
学校が終わり、帰宅してすぐに芭流の様子を見に行こうとしたら、お母さんに引き止められた。
お母さんは普段見ることのない強ばった顔をしていて、何となく、お互いに頭に芭流のことを思い描いている気がした。
出て行くことを止められたことと相俟って、胸騒ぎがする。
「芭流ちゃんね、今朝お父さんが入院されて、親戚の方が迎えに来たのよ」
「は……?⠀親戚って、どこの?⠀引っ越したってこと?⠀すぐに帰ってくるんだよな?」
矢継ぎ早に問うけれど、お母さんは何も答えてくれない。
「帰ってこないよ。芭流ちゃんのお父さん、もう芭流ちゃんのことがわからないから、一緒には暮らせないって」
「芭流のお父さんなんだから、芭流のことはわかるに決まってるじゃん。お母さん何言ってんの?」
「今の芭流ちゃんのお父さんと一緒にいると、芭流ちゃんが危ないのよ」
言っている意味がわからなくて、ぐしゃぐしゃと髪をかき回す。
芭流は自分の身の守り方を知っているから、大丈夫。
そう伝えると、お母さんは目を見張った。
「それは、千里がそう思うだけでしょう?⠀芭流ちゃんのことは誰のせいでもないから、それだけはわかってね」
芭流は強いから、きっとそんなのは本当の理由じゃない。
誰のせいでもないというのなら、それは他の誰のせいでもなく、俺のせいだ。