この恋がきみをなぞるまで。


「好きって言わずに、伝えるにはどうしたらいいと思う」

「何を言ってるんだ」

「まあ、それが普通の反応なんだろうけど。俺からたぶん、好きって言ってやれないから」


言う意気地がないだけ、と言われたらそれまでで。

でも、もしも、想いを伝える機会が巡ってきたとして。

好きという言葉は、少しだけ、形が違う気がする。


どうして胸に巣食う想いを、そのまま言葉にはできないのだろう。

もどかしさとは口にできるのに、その原因は上手く言葉にならない。


「俺はてっきり、預かってる手紙にそう書いてあると思ってたんだがな」

「あれも告白まがいなこと書いてはいる、から、できれば芭流が読まないって決めて捨ててほしい」


とんでもない我儘を言っている自覚はある。

先生も呆れているし、こんな話にも飽きている様子だった。


「千里」


布団の上で、先生は庭の先を見つめながら、言う。


「芭流のことは、あの子が越えていくことだから、あまり気に病むなよ」

「……わかってるよ」

「守りたいのも、そばにいたいのも、千里なんだろう」


芭流がいなくなったばかりのころ、先生に泣きついてそう言ったことがある。

守りたかった、そばにいてやりたかったって。

家でそれを口にしたら、俺のせいじゃないとばかり言われるから。


頷くと、先生は骨ばった手を伸ばして俺の髪をぐしゃぐしゃに撫でた。

こう言ってはいけないのかもしれないけれど、何となく、先生と会えるのは最後な気がして。


ありがとう、と伝えると、先生はまた少し、笑った。


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