俺、チョコはいらない。
すると、首元に巻いているマフラーがもぞもぞしていて目を開けると──。
「マフラーが崩れかけてた」
……え?
どうやら、橙也が私のマフラーを丁寧に巻き直してくれたらしい。
「あっ、ありがとう。橙也」
「べつに……舞衣に、風邪引かせたくなかっただけだから」
照れくさそうにそれだけ言うと、橙也はスタスタと歩いていく。
嬉しいな。
「ねぇ、待ってよ橙也。一緒に学校行こ」
「……好きにすれば」
これは、OKってことだな。
そう解釈した私は、橙也の横を歩く。
橙也の歩く速度が、先ほどよりもゆっくりになる。
私の歩幅に合わせてくれてるんだ。
しかも、車道側を歩いてくれてるし。
幼い頃から高校生になった今まで、いつも口数は少ないけど……橙也はほんと優しいな。
私は、橙也の顔を見つめる。
長いまつげや、すっと通った鼻筋が綺麗で、自然と目が釘付けになった。
どうしよう。橙也の顔だけでなく、こういうさりげない優しいところが好きだ。
今日絶対にチョコを渡して、好きって伝えたいな。
橙也のことを改めて好きだと思った、バレンタインの朝だった。