あなたと私の恋の行方
「マシュマロ?」
小谷の呟きを拾ったのか、優秀なバーテンダーがガラスの小皿に真っ白なマシュマロを乗せてカウンターに置いた。
「さすがに僕でも、マシュマロは知ってますよ」
ちょっと不貞腐れたように小谷が答えて、マシュマロをピックで刺した。
「子どもの頃、キャンプに行った時に食べたことないか? 長い棒に刺して、火で炙ってチョッと焦げたところを食べるやつ」
「ああ、やりました。クラッカーにチョコ乗せたりして旨かったなあ~」
バーテンダーがぽそっと「スモア」と呟いた。
「そう、それ。まっ白で甘くてフワフワしてるのに、口に入れたら以外に食感がはっきりしてる。でもあっという間に溶けちゃうんだよ」
バーテンダーが柊一郎の解説にうんうんと頷いている。
「あとに、ほんのりした甘さが残るんだ」
柊一郎の解説を、マシュマロを食べながら小谷は聞いていた。
「でも、それのどこが西下なんですか?」
真面目な顔で聞いてくる小谷に、柊一郎は滅多に見せない笑顔になった。
「いや、今日見かけた時に白くてフワフワしてる奴だな~と思っただけだ」
「例えが最悪ですね」
柊一郎としては褒めたつもりだが、セクハラにもとられそうだからそれ以上は避けた。
「とにかく、あれが優秀なのか」
気を取り直して小谷に尋ねたら、こと細かに話してくれた。
「はい。作業は早いし、センスはあるし、なにより知識欲があるのでどんどん新しいことを吸収していきます」
「へえ」
そんなに優秀なのに名前を聞いたことがなかったもの、新川が妨害していたからだろう。
「一緒に仕事していて楽しいですよ」
「君が言うんだから、本物だろう」
小谷が入社した時から去年まで指導したのは柊一郎だ。小谷が優れているのはよく知っている。
「誰が見てもそう言いますよ。今は、新川が自分に都合よく使ってます。下手したら潰されますよ。もったいない」
「わかった。この件は任せてくれ」
「よろしくお願いします」
男ふたりはグラスを軽く合わせた。カチンと透明な音がした。