あなたと私の恋の行方



***



桜の花が散り始めた頃、千也君から呼び出しがあった。

『金曜日の夜、空いてる? ゴハンでも食べよう』

母からも『たまには行ってきなさい』と勧められたので、出かけることにした。
母が無理をしないように、夕食の下準備をしておいたから大丈夫なはず。
念のため父あてに、献立のメモ書きも残しておいた。

金曜日、千也君と待ち合わせたのは仕事が定時で終わらなくても待ってもらえそうなカフェだ。

案の定、新川課長にいつも通り振り回されてしまったので少し遅くなってしまった。
大急ぎでカフェに駆けつけると、千也君は時間ピッタリだったらしく男性とふたりで奥のテーブルに座っていた。

「千也君、お待たせしました」
「あ、由香ちゃん、お疲れさま。急に呼び出してゴメンね」

千也の隣に座ったから、もうひとりの男性と向き合う形になった。

「由香ちゃん、こちらは僕の高校時代からの友人で佐野学(さのまなぶ)。商社マンだ」

軽く頭を下げた仕草が爽やかな印象の人だ。

「初めまして、千也君の従妹の西下由香です」
「佐野です。よろしく」
 
『佐野』という名字で部長を思い出してしまったが、顔立ちは似ていないしイメージも違う。

(初めて会った人に、ご親戚ですかって聞くのは失礼かも……)
 
お茶を飲みながら当たり障りのない話をした。
天気のこと、美味しいお店のこと、学生時代の失敗談。

千也君との仲のよさが感じられたし、佐野さんは知的な話し方をする人だった。
理論派なのか、真面目なのか、冷静で頭のいい人だなと思う。
それなのに笑うと目じりがクチュッと細くなるところが可愛らしい。

「じゃあまたね」
「また会おう」

カフェで佐野さんとは別れた。

(あれ?)

三人で食事にいくのかと思ったりもしたが、どうやら違ったようだ。

「今日はイタリアンの店を予約したんだ」

そこは千也の贔屓の店らしくて、カフェからは歩いて数分のところだ。

「由香ちゃん、なに飲む? ビール? ワイン?」
「アペロールのソーダ割りにしようかな」

料理はふたりで色々とシェアしようということになった。

「お行儀悪いけど、二倍楽しめるしね」
「千紘ちゃんがいたら、三倍なのに」
「今日はアイツ忙しいんだって」

おしゃべりしながらふたりともパクパクとよく食べた。
デザートのマチェドニアのアイスクリーム添えが運ばれてくると、急に千也君が改まった顔をする。

「由香ちゃん、今、彼氏いる?」
「えっ?」

「由香ちゃんも二十六でしょ、彼氏いるのかな~って思って」
「いやいや、ムリでしょ」

お互いに顔を見合わせてため息をついた。だって、恋愛結婚は御法度と言われているのだ。
私以上に千也君は大河内家直系だからもっと厳しいだろう。

「我が家の事情があるから気にしてるんだよね」
「うん」
「この時代に可笑しいよね、一族が認めた相手としか結婚しちゃダメなんて」
「うん……まあねえ」

食後の濃いエスプレッソを飲みながら、今度はこっちから聞いてみた。

「千也君や千紘ちゃんはどうなの?」

「僕はまだまだ。三十過ぎてから考えるよ。千紘は……」

二十九歳の千也君はカウントダウン状態みたいだから渋い顔になった。
ひとつ年下の千紘ちゃんのことは言いにくそうだ。

「あ、ムリに聞き出そうとしてる訳じゃないから言わなくていいよ!」

「わかってる。アイツは大勢を侍らせた中から選ぶことを楽しむような奴だから」

実の妹のことなのに、とんでもない言い方だ。

「すごいね~。さすが千紘ちゃんはかっこいいね~」

でも、私にとって千紘ちゃんはあこがれの存在だ。
結婚相手を選び放題なんて、まるで夢のようではないか。

「でさ、さっき会った佐野君だけど」
「うん?」

「彼、結婚相手にどう?」
「ええ!」

少し大きな声が出てしまい、思わず手で口を押えた。

「家柄もまずまず、本人優秀で将来有望。見た目も合格だし、由香ちゃんの結婚相手にバッチリでしょ」



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