あなたと私の恋の行方
突然のことで動転していたから、力いっぱい口元を押さえてしまいむせそうになる。
「い、いや~、私の方が釣り合わないよ」
否定しても千也君は聞く耳を持たないのか話しを続ける。
「由香ちゃんとお似合いだな~と思って紹介したのに」
「無理無理!」
「彼氏いないんだったら、あちらがオーケーなら、付き合ってみない?」
さっきお茶を飲んだだけの相手なのに、結論を求められても困ってしまう。
「ゴメン、いきなり言われても頭が働かない」
「ダメ? 親父たちに無理やり見合いさせられるよりいいかな~と思ったんだけど」
グイグイ押してくるくせにシュンとした顔を見せても、ほだされるわけにはいかない。
従兄姉が見た目と違って腹黒いのは、これまでの経験で十分わかっている。
きっと私に佐野さんを薦めてくるのにも理由があるはずだ。
「でも、気にしてくれてありがとう」
「僕の紹介なら、出会いとしては恋愛チックでしょ」
ふたりで顔を見合わせ、思わず笑ってしまった。
「従兄の親友との恋愛? ドラマみたいだね」
「だろ?」
それからは佐野さんの話はわざと置いておいて、いっぱいおしゃべりした。
しっかりご馳走になったあと、タクシーを千也君が呼ぶという。
「乗っていけば」というお言葉に甘えてしまう。
「返事は急がないからね、ゆっくり考えて」
車の中で千也君は佐野さんの話しを持ち出した。
「うん、考えてみる」
別れ際にはそう答えるしかなかった。
家に帰ってから、今日会ったばかりの真面目そうな佐野さんの顔を思い浮かべようとした。
でも、私の脳裏に浮かぶのは、野生の猛獣のようにギラついた佐野部長の顔だった。
(やだ、同じ『佐野』でもイメージする相手間違えてる)
結婚なんかまだまだ先のことだと思っていたけれど、自由でいられる残り時間は少ないことに気が付いた。
『我が一族の者に恋愛結婚など有り得ない』
祖父の言葉を思い出して、思わずため息が漏れる。
恋も知らない私が結婚を考えるのは正直辛い。
(佐野学さんか……いい人みたいだったし)
お付き合いすることを考えてみてもいいかなと、なんとなく思ってしまった。