あなたと私の恋の行方
土曜日の朝、西下家のキッチンは甘いオレンジの香りで満ちている。
今日はオレンジのマーマレードを作る日だ。
丸ごとのオレンジを熱湯でさっと茹で、薄くキレイに輪切りにしてからグラニュー糖でゆっくり煮詰める。
砂糖の量とか、仕上げのタイミング、コアントローを使うなど工夫を重ねてきた自慢のマーマレードだ。
何年か前に、大河内家で食べたフランスのマーマレードが忘れられなくて家で作ってみた。
プレゼントしたら母や真知子伯母さんが喜んでくれたので、母の日が近付くと毎年たくさん煮ている。
(今年もいい感じに出来た!)
保存瓶に詰めたものを並べて大満足していたら、休みの日なのに小谷さんから電話が入った。
「もしもし」
『西下さん? 休みにゴメン。今、電話大丈夫?』
「はい、大丈夫です」
『急で悪いんだけど、仕事のことでチョッと話があるんだ。これから出て来られる?』
予定していたマーマレード作りは終わっているから時間は大丈夫だ。
「会社にですか?」
『いや、ちょっと待って』
小谷さんはゴニョゴニョと誰かと相談している様子だ。
『西下の家は西荻窪だよな。今、芝浦にいるから田町の駅まで来てくれるか?』
「一時間くらいかかりますが、よろしいでしょうか?」
『オーケーだよ。そんなに急がなくていいからね』
「じゃ、待ち合わせは……」
小谷さんと打ち合わせをして、父母には急な仕事だと断ってから大急ぎで家を出た。
駅に着くころに連絡したら、近くまで小谷さんが車で迎えに来てくれた。
「突然ごめんね」
いつも生真面目な小谷さんが、ラフな服装なのに驚いた。
おまけにリラックスした柔らかい表情だから、別人のようだ。
「どこに行くんでしょう?」