あなたと私の恋の行方
「わ、私が企画部に?」
「小谷から君が色んなアイデアを持っているのは聞いているよ」
そういえば、新商品やイベントのことで小谷さんと仕事をしながらよく雑談していた。
その話が佐野部長に筒抜けだったと知って、恥ずかしくなってくる。
「私のアイデアなんて……たいしたことないです」
ボソッと否定してみるが、ふたりの耳には届かないようだ。
あれこれと話しているうちに、午後六時近くなってきた。
「じゃあ、仕事の話はここまでにしよう」
佐野部長が話をまとめたところで、小谷さんが立ち上がった。
「佐野さん、ビール貰っていいですか? 喉が渇いちゃって」
「ああ、好きなのを飲んでいいぞ」
そういえば、この部屋に来てからかなり時間が経つが、三人とも話に集中していた。
気が付くと東京湾は夕焼けに染り、白い壁がオレンジ色っぽく見えている。
小谷さんは勝手に冷蔵庫を開けたり、キッチンの中を漁ったりし始めた。
「お腹もすいたな~」
なんとなく放っておけなくて、佐野部長に声をかけた。
「あの、キッチンを使ってもよろしいでしょうか?」
「は?」
佐野部長は思いっきり不思議そうな顔をした。
「料理できるの?」
「まあ、少しは」
「いいよ。使ってくれて。なにかつまみでも作ってくれたら助かるな」
小谷さんは「やった~」と言って、冷蔵庫の中になにがあるか教えてくれる。
ひとり暮らしだからか、食材は少ないようだ。
「部長はお料理なさらないんですね」
ここに住んでいるわりに汚れがまったくないし、最低限の調理器具しかない。
佐野部長の食生活はどうなっているのだろうと心配になるくらいだ。
「佐野部長のプライベートは謎だからね。僕も知らないことが多いんだ」
部長のかわりに、悪戯っぽく小谷さんが答えてくれた。
「し、失礼しました! 立ち入ったことを言ってしまって」
お詫びしていいのかどうか迷ったが、取りあえず頭を下げた。
「いや、別に隠しているわけじゃないんだ。あれこれ詮索されると面倒だからプライベートなことをしゃべらないだけさ」
「な、なるほど」
確かにモテまくっている佐野部長のプライベートは皆が知りたがるだろう。
「ここはコンシェルジュがいるし家事代行サービスを頼むからなんとか生きてるよ」
ニヤリと笑う佐野部長の顔はいつものニヒルなイメージではなくて、もっと気さくなものだった。
私はキッチンに立つと、冷蔵庫や棚の中から小谷さんが物色した食材でなにを作るか考えてみた。
手始めにクラッカーの上にチーズやオリーブを乗せたものをふたりの前に出しておく。
次に、流石にミントはなかったが、トマトを薄くスライスしてモッツアレラチーズを乗せたカプレーゼ。
あとは、フライパンに少量のお湯を沸かしてソーセージを軽くボイルしたあと、そのまま焼いて焦げ目をつけたものや、ナッツ類を小皿に乗せた。
「西下、やるな」
ササっと何皿か並べると、小谷さんがメガネの奥の目を細くしながらパクついている。