あなたと私の恋の行方
なんだか顔が火照ってきた。もしかしたら真っ赤になっているかもしれない。
「佐野先輩、酔ってますか?」
小谷さんまでが、佐野部長の質問に驚いている。
「いや、君のことをどこかで見かけた気がするんだが思い出せない」
あのパーティーだと思ったけど、ここでふたりに打ち明けるわけにはいかない。
会社には大河内家との関係は秘密にしているのだ。
「それに、西下から美味しそうな爽やかな甘い香りがするんだ」
佐野部長が確かめるようにクンと鼻を近付ける。
それが妙にセクシーに見えて、私は思わずプルリと震えてしまった。
「佐野さん、セクハラになりますよ」
小谷さんのひと言で、佐野部長も少し離れてくれた。
「あ、オレンジの香りかな? 今日、マーマレードを煮てたんです」
私は焦りながら、今朝からキッチンに籠ってマーマレードを作っていたと説明した。
「マーマレードを自宅で?」
「はい」
「へえ~、いいこと聞いたな」
佐野部長が小谷さんの方を向いて、ニヤリと笑ったのが気にかかる。
「はい、先輩。タイミング的にバッチリかと」
なんの話だかよく分からなかったが、取り敢えず知らないふりをしておこう。
今日は色んな情報が一気に入ってきて、頭の中がごちゃごちゃだ。
難しい話はもう終わっていたので、三人で楽しく飲んだり食べたりした。
仕事の話しというより、美味しい店やお互いの好みの食材の情報を交換する。
男の人でも仕事に関わることだからか、ふたりの幅広い知識を聞いていると飽きることがない。
そんな時、微かな音でスマートフォンの着信音が鳴った。
「私かな?」
ボリュームを下げていたので、気付くのが遅くなったかもしれない。
液晶画面を見ると、千也君からだった。
部長たちに断ってから、キッチンに移動して電話に出る。
『由香ちゃん、今どこ?』
「部長のお宅。仕事の話が長くなっちゃって」
『もう九時だよ。叔母さん心配してたよ』
千也君は母の体調を気遣って、週に一度は必ず電話をくれるのだ。
私に架ける前に、母に電話したのだろう。
「そろそろ帰ります」
『だから、今どこ? 迎えに行くから』
一度決めたら千也君はひかない。
仕方なく佐野部長に迎えが来ることを話して、許可をもらってからマンションの場所を伝えた。
『すぐ行く』
「あ、千也君!」
返事をする前に電話は切れた。