あなたと私の恋の行方
ニヤニヤしながら小谷さんがこっちを見ているのは、勘違いをしているからだろう。
「すみません、従兄なんですけど過保護で」
「いや、こっちこそ引き留めて悪かった」
佐野部長はそう言ってくれたが、寛いだ時間を邪魔したようで申し訳なかった。
「こっちこそ、ごちそうさまでした。ぜんぶ美味しかったよ!」
小谷さんは私の作った料理を気に入ってくれたらしい。
「今日の話はまだ内密に。小谷、迎えが来るまで一階のエントランスに一緒にいてやってくれ」
「了解です。でも、僕はまだまだ飲みますからね」
「わかったわかった。お前はザルだからな」
さっとテーブルを片付けてから、佐野部長に挨拶をする。
「今日はありがとうございました。失礼します」
「ああ、また」
佐野部長は、新川課長に対しての冷たい無表情な顔ではなくて柔らかな笑顔を向けてくれた。
なんとなく頬が熱くなってしまう。
玄関を出ると頬の熱が引いてくれてホッとした。
小谷さんは気が付いていないみたいで、いつも通りの距離感でエントランスまで付き合ってくれる。
ふたりで雑談しながら、千也君の濃紺のドイツ車が来るのを待っていた。
ところが、迎えに来てくれたのは祖父用の運転手付きの高級車だ。
千也君も乗っていると思うが、マンションの正面に車を停められてしまうと逃げ場がない。
(うわあ~。千也君の車じゃなくて、運転手の鈴木さんだ……)
千也君たら、なんてことをしてくれたんだと思ったが、もう遅い。
この場をどう逃げ切るか頭の中で考えたのだが、答えが出るより千也君が車から降りてくる方が早かった。
「由香ちゃん、お待たせ」
「千也君、ありがと」
もちろん運転手の鈴木さんがドアを開けてくれる。
「由香ちゃん、こちらの方は?」
「あ、同じ部署の先輩で、小谷慎二さんです。小谷さん、私のいと……」
私がオタオタと説明するより、千也君がサッと名刺を出す方が早かった。
「いつも由香がお世話になっております」
まるで保護者のような口ぶりで、小谷さんを威圧しているみたいだ。
「千也君、帰りましょ。小谷さん、失礼します!」
小谷さんは唖然としているが、一刻も早くこの場から離れたい。
千也君がエスコートしてくれたので後部座席に滑り込む。
「鈴木さん、出して」
「はい」
車の中から会釈をしたが、小谷さんはあっけにとられた表情のままだった。