あなたと私の恋の行方


「それとは別なんだけど、今週の土曜日の夜って空いてない?」

咲子が探してくれていたのは、仕事というより予定の確認のためだった。

「土曜日? 映画でも行く?」

「まさか! 例のヤツよ」

「あ………」

『例の』と言われて思い出した。少し前に誘われていた飲み会のことだ。

「一回ぐらい、付き合ってよ。建築会社の設計部だよ~」

「ゴメン。やっぱり土曜日はムリだわ。予定があるの」

「残念。でも次は絶対、参加してよ。由香のこと連れてきてって頼まれてるの」

「わかった」

咲子を納得させるために、つい約束をしてしまう。

「じゃ、またね!」

会議室に資料を届け、自分の席に戻ってからため息をついた。

(建築会社の設計部か……縁のない世界だなあ)

再び仕事に集中しようとパソコンに向かうけど、気持ちの切り替えは難しい。

咲子のお誘いは、出会いを求めるならいい機会だと思う。
私だって、参加したくないのではない。
むしろ、ステキな人と知り合うチャンスだから一度くらいいってみたい。 

(誰かと出会って、デートしてみたいな……でも、無責任なことはできない)

口に出せない気持ちを胸の奥に閉じ込めて、仕事に集中しようと頬をパチンと叩いた。



***



私がそんなふうに考えてしまうのは、両親の結婚が原因だ。

私の父西下稔(にししたみのる)は平凡な公務員。母の麻子(あさこ)は専業主婦。
そのひとり娘が私。
 
ごく普通の家庭で育った普通の会社員の私だけど、周囲には内緒にしていることがある。

母は『大河内ホールディングス』の社長の娘だ。
つまり母方の祖父は私の勤める会社の社長大河内三舟(おおこうちみふね)で、母の兄、つまり伯父は副社長の大河内理久(としひさ)ということになる。

両親は社長令嬢と苦学生という立場で出会った。
ふたりは大学時代に想いを育んだが、いざ結婚となると『身分が違う』と周りの強い反対にあってしまう。
祖父と伯父は、母を由緒ある家に嫁がせようとしていたのだ。

それに気が付いた両親は、なんと駆け落ち結婚してしまった。
現在のおっとりした両親からは想像もできないけど、なかなか情熱的な恋だったみたい。




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