あなたと私の恋の行方


「佐野学の義兄(あに)で、佐野柊一郎と申します。本日はよろしくお願いいたします」

丁寧な自己紹介のあと、佐野部長は深く頭を下げた。

「母親違いの兄弟になります」

サラリと驚くことを話しているのに、佐野部長はいつもと同じ表情だ。
佐野部長のお母様が亡くなってから、お父様と再婚した方との間に産まれたのが佐野学さんとのことだ。

(部長の義弟さんだって知ってたのに、千也君は黙っていたんだ)

その証拠に私だけがハクハクしていて、千也君も伯母さまも部長の話を聞いてもケロリとした顔をしている。
佐野部長だって落ち着いている。
大河内ホールディングスの副社長の妻と息子が目の前にいるから、余計にクールなのかもしれないけど。

「義兄さん、忙しいんじゃなかったの?」
「いや、大丈夫だ。お前の大切な日だから、ご挨拶するのは当然だろう」

佐野部長は大河内一族が見合い相手と聞いて、顔を出す気になったのだろうか。
残念なことに、相手が私だとわかってがっかりしているかもしれない。

「佐野さん、お変わりない?」
「ご無沙汰しております」

さすがに真知子伯母さまは佐野部長の活躍を知っているのか、目が輝いている。

「学生時代から大河内家の皆さまには大変お世話になっていると義弟から聞いておりました」
「千也とは高校からずっとお友だちだったから、学君はよくうちに遊びに来ていたの」

ホホホと余裕で笑う伯母さまと、いかにもエリートといった感じの佐野部長。

「そうでしたか」
「由香ちゃんの上司ですものね、久しぶりにお会いできて嬉しいわ」

その言葉で、初めて佐野課長と目が合った。

「お疲れさまです」

「君が大河内家の親戚のご令嬢だったとは知らなかったよ」
「いえ、私はまったくの庶民です」

それ以上はお互いに言葉が続かない。なんとなく気まずいのだ。
いつもと違ってお洒落しているし、まさか佐野部長の義弟さんとは思っていなかったから心の準備ができていない。

真知子伯母さまもチョッと首を傾げたが、すぐに佐野さんに話しかけている。

「これもなにかのご縁かしら」

弾んだ声なのに、なんとなく重い響きが感じられた。






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