あなたと私の恋の行方
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佐野柊一郎の脳内は様々な情報が駆け巡っている。
挨拶のあと、なんとか口に出た言葉は我ながらあまりにも正直すぎた。
「君が大河内家の親戚のご令嬢だったとは……」
「いえ、私はまったくの庶民です」
彼女の従兄だという弁護士が噴き出したのは、上司と部下にしては妙なやり取りだったからだろう。
話を聞いてみると、どうやら西下由香が社長の孫というのは極秘事項らしい。
佐野学は俺の義弟だ。
俺を産んですぐに母親は亡くなった。
だから父が再婚した相手に俺は育てられたようなものだし、ふたりの間に産まれた学とも実の兄弟のように育った。
俺の父もすでに亡くなっているが、生前は佐野商事の社長だった。
事情があって、現在の佐野商事は父の弟が経営権を握っている。
俺は反対したのだが、学は佐野商事に就職してしまった。
父から会社を奪った叔父を許せないらしく、なんとか会社を取り戻そうと頑張っている。
俺は長男とはいえ家を出ているし、とっくに佐野商事への未練はない。
そんな俺を、学は恨むことなく義兄として慕ってくれている。
今日は義母に頼まれて、見合いの席にやってきた。
自分の代わりに相手のお嬢さんを見てきてくれと言われたのだ。
義母は身体の弱い人だから、こんな堅苦しい席は遠慮したいのだろう。
(見合いか……)
義弟もそんな年になったのかと感慨深かったのだが、ホテルに着いてみて驚いた。
大河内家の親戚のご令嬢だとしか聞いていなかったのだが、なんと学の相手は西下由香だった。
会社での由香の様子、いつか自分のマンションで見せた育ちの良さそうな振る舞い、小谷が言っていたベンツの迎えと国際弁護士の従兄……パズルのピースがパチッとかみ合った。
なんとなく居心地が悪い中で、コーヒーを飲みながら話を聞くことにした。
学はいつも通り、真面目で穏やかな表情だ。西下も照れくさそうに俯いている。
彼女が恥じらっているのが愛らしい。こんな顔もできたんだと、意外な一面を知ることもできた。
「あとは若いおふたりで……ですよね、母さん」
大河内千也がタイミングを見て声をかけてきた。
「学君、よろしくお願いしますね」
「はい、今日はお預かりします。夕方までにはご自宅にお送りしますのご安心ください」
学たちが促されるまま、立ち上がった。
「車で来たのでどこか出かけましょう」
「はい。よろしくお願いします」
「あら~、並んでる姿、お似合いじゃない?」
「そうですね」
適当に相槌を打ちながら、柊一郎は別のことを考えていた。