あなたと私の恋の行方
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佐野さんが運転する車は横浜に向かっている。横浜中華街でランチする事になったのだ。
「好き嫌いはありませんか?」
「は、はい」
「そんなに固くならないで」
私はカチコチに緊張していたが、佐野さんは気さくに話しかけてくれた。
千也君や佐野部長の話で思いがけず盛りあがったくらいだ。
佐野さんとお見合いしたことで、謎だった佐野部長のプライベートな部分が少しわかった。
普段の仕事に対する厳しさとは違って、義理の母親と義弟に気を遣う優しさのある人らしい。
「小さい頃はよく遊んでくれたんですよ」
「そうなんですか」
「いつも、怖い顔してるでしょ」
「ええ」
「こんな感じ」
佐野さんが、部長のしかめ顔を真似てみせたから笑ってしまった。
義理とはいえ兄と弟だから、なんとなく似ているなと感じた。
「人に優しくすると照れくさいみたいです。だから無表情で誤魔化すから、表情筋が固まっちゃったんでしょうね」
確かに、佐野部長は豪胆さが目立つから優しいところは見過ごされがちなんだろう。
部長には申し訳なかったけど、佐野さんからいっぱい普段の姿を聞いてしまった。
ランチを食べたあと、佐野さんは少しドライブして夕刻までに西荻窪の自宅まで送ってくれた。
そして、父にまでキチンと挨拶してくれる。
佐野さんの挨拶を受けた父は、真面目そうな彼のことが気に入ったみたいだ。
「今日は楽しかったです。もしよかったら、またお会いしましょう」
「また誘ってやってください」
父の方が乗り気ではないかと思えるほど、ニコニコ笑いながら挨拶をしている。
佐野さんを見送って着替えてから、いつものように夕食の支度をしようとキッチンに立つ。
すると珍しく母がキッチンへそっと入ってきた。
「由香ちゃん」
「なあに、お母さん」
「佐野さんのこと、結婚相手として考えているの?」
気になっていたのか、母はストレートに聞いてくる。
「う~ん。いい人だなあ……とは思ってる」
まだ二回しか会っていない人のことを結婚相手と聞かれても、私は答えようがなかった。
「そう?」
「なんとなくだけどね」
「気にしてるんだ、大河内家のこと」
母にとって気掛かりなのは、見合い相手のことより大河内家の意向かもしれないと気が付いた。
「そうだね、気にならないとは言えないかな」
「ゴメンね、頑固なお祖父さまと、伯父さまで」
「大丈夫だよ、お母さん。佐野さん、いい人だし」
私がフォローするように話すと、母はチョッピリ眉をしかめた。
「由香、いい人って誉め言葉にならないかもしれない」
「どうして?」
「お母さんはね、由香がときめく人と結婚して欲しいなあ」
「ときめく人?」
母は微笑んで、リビングにいる父の方を見た。アイコンタクトというやつだ。
「私たちのこととか、大河内家のこととか、由香は気にしなくていいんだよ」
父は母の視線を受けてそう言ってくれたけど『ときめく出会い』なんて、私には想像もできなかった。