あなたと私の恋の行方
これも仕事です
(同じ部署に、お見合い相手の兄がいる? どんな顔して挨拶すればいいんだろう)
月曜日の朝。
私は会社に着くまでの間、ずっと悩んでいた。
笑っていてもおかしいだろうし、無表情では感じが悪い。
でも、企画部に一歩足を踏み入れたらそれどころではなくなった。
とにかく忙しい。次々と仕事は舞い込んでくる。
資料集めも、データの入力も、分析もノンストップだからパソコン画面を前に動けない。
そのうえ、部内会議の日程調整や出張の手配まで頼まれてしまう。
そんな毎日が慌しく過ぎていくうち、佐野部長の義弟さんとお見合いしたことなど吹き飛んでしまった。
そんなある日、佐野部長から声が掛かった。
「小谷、西下、市場調査に同行しろ」
「はい」
慌ててバッグを持つと、背の高い二人のあとを追いかけた。
都内にある取引先の大手スーパーチェーンやデパートを回る。
お昼前は結構買い物客が多いから、我社の製品の動向も目につく。
食品業界でヒットするのは発売されたものの中でも、百分の一とか千分の一の確率だと言われているくらい少ない。
そのかわり、大ヒットしたらものすごい売り上げにつながる。
ただ、ブームに乗ってヒットしても、いつかは飽きられてしまうのが食品の運命だ。
飽きられないためにアレンジしたりパッケージを変更したりと細かい作業は続けられている。
そのためにもマーケットのリサーチは大切な仕事なのだ。
佐野部長は部下に任せるだけでなく、自分でも外の空気を肌で確かめるタイプらしい。
ひととおり見て回ったら、少し遅めのお昼を食べようということになった。
部長が連れていってくれたのは、有名な高級果物店だ。
ここでも気になることがあるらしく、支配人と話し込んでいる。
私は店頭のガラスケースに見入ってしまう。
初夏に相応しい果物がズラリと並んでいるのだ。
(美味しそう)
形もいいし香りもいい。さすがに値段もいいが果物たちから目が離せない。
「客の様子を見ておけ」
小声で指示されて、慌てて店内を見渡した。
メロンやキウイ、パイナップルやマンゴー、どれを買う人が多いのかそれとなく観察する。
柑橘類の種類は豊富だし、そろそろ佐藤錦も並んでいるから買うのにも迷うだろう。
佐野部長が支配人と話している間に買い物客の動向などをリサーチしながら、私が買うなら美しく輝く佐藤錦かなと想像してみる。
店内を見て回っていたら部長が上を指さした。二階のパーラーへ行くぞという合図なのだろう。
ここのパーラーは老舗だけあって人気が高い。
デザート類だけでなく、ランチには軽いフレンチも提供しているのだ。
昼食を兼ねての打ち合わせかもしれないと思いつつ、エスカレーターに乗った。
奥の席に座ると、佐野部長は三人分のランチを注文した。食後にコーヒーも頼む。
「あ、僕はコーヒーとイチゴショート」
「好きにしろ」
小谷さんがケーキを頼んだのを見て、私は迷わずミニフルーツパフェを指さした。
「私はコーヒーじゃなくて、これで……」
チョッと恥ずかしいけど、ここのパーラーに来たらどうしても食べたいのだ。
小谷が目を丸くしている。
「あれは子どもの食べるものだと思っていたので驚いただけだよ」
「俺は生まれてからパフェなんて食べたことがない」
ランチを食べ終えると、お楽しみ登場だ。
小谷さんは嬉しそうにイチゴのショートケーキを頬張っている。
私もミニサイズとはいえ、幸せいっぱいの気分でスプーンを口に運んだ。
「旨いか?」
佐野部長の問いかけに、コクコクと頷く。
背の低いグラスに、彩りよくクリームやフルーツが飾られている。
「お前、幸せそうに食べるなあ」
小谷さんに呆れられてしまった。
「私、フルーツ大好きなので」
「安い幸せだなあ。これくらいの幸せなら、いつでも驕ってやるよ」
「ありがとうございます!」