あなたと私の恋の行方


当時は世の中が不景気で、大河内ホールディングスも苦境に立たされていた。
そこで祖父たちは、あるエネルギー関連の企業と提携することでピンチを乗り切る方法をとった。
より絆を強固なものにするために、母はその企業の御曹司に嫁ぐことになっていたらしい。
いわゆる政略結婚だ。

それを台無しにしてしまったので、母は大河内一族から絶縁されてしまった。
新婚時代は公務員官舎に住んだりして、お嬢様育ちの母はかなり苦労したようだ。

私が生まれたことでやっと許されたけど、父にそっくりな私を見て祖父たちはガッカリしたことだろう。
母は大河内家のお嬢様として育っただけに、おっとりとした美人だ。
父親似の私は『ホッと安らぐ顔』と言われるが、誉め言葉ではない気がする。

容姿も普通だし、お嬢様らしい雰囲気もない。それに外国語が堪能だとかピアノが上手だとか、特筆すべき才能はない。
『大河内一族のひとり』と紹介されても、誰だってピンとこないはずだ。

それなのに、母のかわりに私が大河内家に縛り付けられることになってしまった。

あれは大学に合格した春だった。
祖父の母校である大学に入学が決まったので、『祝いを渡したい』と大河内家に呼ばれた。

緊張しながら書斎に入ると立派なデスクに祖父が座り、横には伯父が控えていた。

「合格おめでとう、由香」

「あ、ありがとうございます」

祖父が満面の笑みで合格のお祝いを言ってくれた。

「私の母校を選ぶとは、由香もなかなかやるな」

祖父はご機嫌だし、伯父も満足そうに頷いている。

「大学生になったのだから、これからは由香君も我が家のパーティーに参加しなさい」

「へ?」

パーティー? 参加する? クエスチョンマークがいくつも頭の中を飛んだ。

「うちの千也(せんや)千紘(ちひろ)と一緒に、大河内家のパーティーに出て、見分を広めなさい」

「は、はい、ありがとうございます?」

千也君と千紘ちゃんは伯父の子どもで私の従兄姉にあたる。
私とは違って、この世に生まれ落ちた日から生粋の大河内家の御曹司とご令嬢だ。

私にはパーティーなんか縁のない世界だったが、祖父の命令は絶対だ。

「由香もそろそろ覚悟してくれないとね」
「覚悟ですか?」

「大河内の一族に生まれた以上、責任があるんだ」
「そうだよ、由香君」

にこやかに話しているが、祖父と伯父の目は笑ってないぞと思った時には遅かった。

「我が一族の者に、恋愛結婚など本来は有り得ないんだ」

祖父からキッパリと恋愛結婚は認めないと宣言されてしまった。

「由香君もそのつもりで。将来の伴侶は私たちが決めるから」

十八歳の春、当時の私には信じられない言葉だった。

『我が一族の者に恋愛結婚など有り得ない』という意味は『恋をしても、その相手とは結婚できない』ということだ。





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