あなたと私の恋の行方
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約束していた土曜日の午後、小谷さんが愛車のコンパクトカーで迎えに来てくれた。
いつも自宅でのマーマレード作りに使っているものを積み込んでから会社へ向かう。
「僕の提案に興味を持ってくれたのは先輩が初めてだったんだ」
小谷さんは持論を支持してくれた佐野部長のことが大好きみたいだ。
「ミカン農家の将来のこと?」
「そう。ひいては日本の農家の将来」
「そうなんだ」
漠然としているけど壮大な話だから、共感を得にくいのかもしれない。
「付加価値を付けて、高い値段で取引出来たら後継者が生まれてくるかもしれない。僕みたいに」
「え?」
小谷さんが見たことないくらいニンマリと笑った。
「今すぐじゃないよ、今は仕事覚えて、人脈作って、金貯めて、いずれは彼女と島に帰るつもりなんだ」
真っ直ぐ前を見て運転する小谷さんの表情は判らないが、その声は弾んでいた。
「彼女? 小谷さんに彼女いたんですか!」
驚きすぎて、声がひっくり返りそうだった。
「高校の同級生で、こっちで小学校の先生してる」
「わあ、長いお付き合いなんですね」
自慢なのか、小谷さんは胸を張っている。
「去年、彼女と島に帰ったらこじんまりした小学校があってね。彼女、そこで教えてみたいって言うんだ」
「小説みたい」
「ほんとに小さくて、三学年くらい集めて、やっとひとクラスできるんだ。五人くらいのね」
「五人でひとクラス? 東京とは全然違う環境ですね」
「みかん山農家と島の小学校の先生が僕たちの夢になったんだ」
どちらかというとクールな小谷さんが、フワフワしたとても甘い表情だ。
「ごちそうさまです」
「彼女のことはまだ、佐野部長にも内緒な」
「いいお話じゃないですか?」
「あの人、結婚にトラウマあるから」
「トラウマ……?」
気になったけど、小谷さんに聞くのも悪い気がして口ごもってしまった。
佐野部長には、やっぱり謎が多いらしい。
「部長は仕事熱心だからなあ。僕たち後輩の意見もよく聞いてくれるし、上との間に立って調整役も引き受けてくれるし」
小谷さんにとって、佐野部長はあこがれの上司なんだろう。とても熱っぽく語っている。
「そうですよね。いつも仕事の流れを気にしてくれてますよね」