あなたと私の恋の行方
(でも、完璧すぎるよね)
私から見たら、佐野部長は才能も実力もルックスも、なにもかもに恵まれているから強気でいられるんだとしか思えない。
きっと恋人の前でも弱みなんてみせないんじゃないだろうか。
(そもそも、弱味なんてなさそうだけど)
佐野部長と対等に付き合える女性は立派だ。あんな大人の男の人なんて私には荷が重い。
(佐野部長が特別に思う人って、どんな女性なんだろう)
仕事がバリバリできる人か、みんなが振り向くくらいの美女かなと想像してみる。
どのタイプも自分とはかけ離れた存在だ。
(私が気にしても……関係ないよね)
そんなことを考えているうちに、会社に着いた。
私と小谷さんが荷物を両手にかかえて調理室に入ると、部長は資料を手にパソコンにむかっている。
土曜日でも仕事をやる気満々だ。
「早速だが小谷、ここの数字見てくれ」
佐野部長と小谷さんが仕事の話しをしているうちにマーマレードを作る準備を始めよう。
エプロンをつけてから、小谷さんの故郷のオレンジを手に取ってみる。
「いい香り」
思わず漏らした私の声に、佐野部長は調理台までやってきた。
(え? 近いんですけど)
仕事をするつもりかと思っていたら、作る作業に興味があるようだ。
「ああ、思った以上に爽やかな香りだな」
佐野部長は、オレンジを手にするとクンクンと香りを楽しんでいる。
「あの?」
「さ、初めて」
以前に自己流の作り方を力説した記憶はあるが、部長の興味を引いてしまったのだろうか。
(素人が偉そうに言っちゃって恥ずかしい)
でも、それ以上に佐野部長がすぐ側に立っている方が心臓に悪い。
小谷さんに助けを求めようと思ったが、熱心にパソコン画面に見入っているから諦めた。
「じゃ、始めます」
「ああ」