あなたと私の恋の行方
***
(あれ?)
小谷さんが買い物に行ってしまったら、佐野部長とふたりきりじゃないかと気が付いて、私はドッと冷や汗が出てきた。
(こんな状況、心臓に悪い!)
案の定、佐野部長は小谷さんの姿が見えなくなったとたんに尋ねてきた。
「学と、その後、どうだ?」
やはり佐野部長も気になっていたらしい。
「え~と、時々、お電話くださってます」
「それだけ?」
「何回か、お茶しました」
「それで?」
佐野部長は、質問を止めてくれない。
佐野さんからはなにも聞いていないらしく、仕事の進捗状況を確認するかのようだ。
「来週、お母様に会わせたいって言われたのでご自宅にお伺いする予定です」
「大河内家からは、なにも言われない?」
「特にはないです」
ひとつひとつ答えながら、これは何の尋問だろうかと不安になってきた。
淡々とした表情で義弟さんとの進捗状況を聞いてくる佐野部長は、もしかしたら私のことが気に入らないのだろうか。
私自身、まだ佐野さんと結婚を前提に付き合う気持ちにはなっていなかった。
千也君と真知子伯母さま立ち合いのお見合いだったから、なんとなく流されてしまったようにも思う。
千也君は熱心だし、早く結婚して病気がちな母を安心させてあげたいと思うとブレーキがかけられない。
「……不思議ですよね、佐野部長の義弟さんとお見合いしたなんて」
ポツリと心の中にしまっておいた言葉がこぼれてしまう。
「世間は思ったより狭いんだ」
「そうですね」
「ま、君はまだ若いし、焦らなくてもいいんじゃないか?」
佐野部長は三十過ぎても余裕の表情だけど、私から見ればもう二十六だ。
結婚して、何年か夫婦ふたりで暮らして、子どもをふたりか三人産んでと、妄想が膨らんでいく。
夫と子どもに囲まれる人生。そして……。
「もしもですが、私が佐野学さんと結婚したら部長がお義兄さん……?」
ふと口から出た言葉に、自分自身で驚いた。
(お義兄さん……)
佐野部長を見ると、驚いた顔をしている。
「す、すみません。まだ決まってもないのに変なこと言いました」
「いや、そうだよな、そうなるよな」
それからは小谷さんが帰ってくるまで、この話題には触れなかった。