あなたと私の恋の行方
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どうして義弟の見合い相手が気になるんだろう。
八歳も年下だし、好みのタイプでもない。
(そもそも、俺の趣味は……)
離婚してから女性とまともに付き合ってこなかったツケなのか、柊一郎にはイメージが浮かんでこなかった。
かつての妻は美しく自信にあふれていた。だがそれだけだ。
西下由香は目立つタイプではないし、自己主張も強くない。それでも、ついかまいたくなってくる。
彼女がアプローチしてくるわけではなくて、俺が普段のペースでいられないだけだ。
柊一郎はマーマレードを煮詰めている由香から離れた。
調理台から離れると、デスクにある手元の資料に目を通しながら漠然とした思いに囚われる。
西下由香を初めて見かけたのは、大河内ホールディングスのパーティーだった。
マンションのキッチンで西下とぶつかった時に妙な既視感があって、パーティで熱心にイチゴを見つめていた子だと、あとから気が付いた。
話してみると、小谷から聞いていた以上に頭もいいし感じがいい。
彼女がキッチンに立ったことで、家庭の温かさを取り戻せた気分になったものだ。
いざ仕事で自分の側に置くと、別の面も見えてきた。
仕事には真面目に取り組むし、センスもいい。相手の話をよく聞いて必要な時だけ口を挟む冷静さもある。
つい、市場調査を兼ねて連れ歩いてしまう。
正直に言えば、今日は小谷と仕事の話しをするだけのつもりだった。
なのに由香を呼んだのも、あの心地よさが忘れられなかったからだ。
これまで感じたことのない多幸感。
『もしもですが、学さんと結婚したら部長がお義兄さん……』
西下の言葉で我に返った。
この子は義弟の見合い相手で、もしかしたら義理の妹になるのだ。
そう思うと、どこかで義弟の結婚を喜べない自分がいた。
(結婚か……)
結婚っていうやつは、俺にとってはどうしても鬼門のようだ。
別れた妻の呪縛だろうか、最後に言われた言葉が脳裏に蘇ってきた。
『あなたは結婚に向かない男よ!』