あなたと私の恋の行方
佐野家に戻ると、まだ佐野さんは帰っていないかった。
「じゃあ、さっそくだけどなにが必要か教えてもらえるな」
「はい。入院の案内書にあると思いますが、病院着は貸出しでしょうか」
それからふたりで案内を見ながら、洗面具や化粧品を用意する。
お母様は几帳面な方のようで、キチンとクローゼットの中も片付いていたので必要なものはすぐに揃った。
「これで大丈夫だと思います」
「ほんとに助かった。こんな時に息子は役に立たないよな」
そう話す部長の背中がとても疲れているように見えた。
「あの、よかったらお茶でも入れしましょうか」
「ああ、嬉しいな、喉がカラカラだ」
ダイニングテーブルに向かい合って座り、少しぬるめの緑茶を入れた。
部長は飲みやすかったのか、ぐっと飲み干した。
もう一度、湯呑に注ぐ。
「君に話しておかなければいけなかった」
さっき病院で途切れていた話だと気が付いた。
「なんでしょうか」
「すまない、義弟には幼馴染の恋人がいたんだ」
「もしかして、百合絵さんですか?」
「もう別れたと思っていたんだが、こんなことになって申し訳ない」
佐野部長が私に頭を下げる。
「いえ、そんな」
部長に謝られて、私の方が慌ててしまった。
昼間の様子を見ていたから佐野さんと百合絵さんの関係の予測はついていたから、思ったほどのショックはなかった。
「百合ちゃんとは別れるって言ってたから安心してたんだ」
「結婚を前提にお付き合いするかどうか、まだ決めていませんでした。ホントに大丈夫ですから!」
なるべく明るい声で答えた。これ以上、佐野部長に心労をかけたくない。
「そうなのか?」
「はい。正式なお返事はしていませんし、このお話はなかったことにしてください」
「わかった。これ以上君に迷惑掛けないようにする。約束だ」
「よろしくお願いします」
私は立ち上がって頭を下げた。そろそろお暇しないと遅くなりそうだ。
「それじゃあ、私はこれで失礼しますね」
「西下、家まで送るよ」
「いえいえ、ひとりで帰れますから」
佐野部長が立ち上がって私のそばにやってきた。
どうしたのかと思って見上げると、あっという間に佐野部長の広い胸に抱きしめられてしまった。