あなたと私の恋の行方
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苫屋咲子は腹立たしい思いで、企画部の由香のデスクにずかずかとやって来た。
キチンと整頓された机から由香の私物を持つと、キッと小谷を睨む。
たまたま近くのデスクだというだけで、小谷にとっては災難だ。
「お宅の部長は?」
「今日はお休みです。西下のものなんか持って、どうかしたの?」
「お宅の上司のおかげでとんでもないことになってるわよ!」
咲子の剣幕に小谷も驚いた。
「どういうこと?」
咲子はここぞとばかりに、由香から聞いた話をぶちまけた。
「……なるほどね。わかりました。苫屋さん、知らせて下さってありがとう。あとは、こっちに任せて下さい。西下さんにも、心配しないでって伝えて」
小谷が冷静に対応してくれたので、咲子の怒りも少し鎮まった。
「小谷さんに任せても大丈夫ですか?」
「心当たりがありますから、大丈夫です。安心してください」
「でも、由香はかなり落ち込んでましたよ」
「そうですか」
「密告を裏付けた上司って、佐野さんらしいですし」
「それは、ありえません!」
キッパリと言い切る小谷に、咲子も彼の言い分を信じることにした。
咲子が由香の私物を持ってその場を去ると、小谷は自分の名刺ホルダーを広げた。
(え~と、大河内……これこれ)
それは、由香を迎えにきた時に従兄だと名乗った弁護士、大河内千也のものだった。
***
その頃、会社で何が起こっているか柊一郎は知るはずもない。
義母は狭心症と診断され、最新のカテーテル治療を勧められた。
それで、元妻で今は医者と結婚しているグレースに協力してもらったのだ。
グレースは医師と再婚して、今はミセスモデルとして活躍している。
特に会いたい存在ではなかったが、義母のためにグレースの夫が勤める病院に救急搬送してもらい専門医を紹介してもらったのだ。
今まさに手術が行われている。
柊一郎は病院の待合室の椅子に座って、じっと終わるのを待っていた。
病院にいると、義母が倒れた日曜日を思い出す。
由香がずっと義母に付き添い、自分を待っていてくれた日のことだ。
今日は柊一郎の隣には学が座り、その隣には百合絵がいた。
ふたりは話し合って、やり直すことに決めたようだ。
学も父の会社を取り戻すことより、百合絵と母の三人で暮らす明るい未来を考え始めたらしい。
美容師をしている百合絵も、仕事を辞めてでも家族を支えてくれるという。
柊一郎は由香を想っていた。
義母と学の件が落ち着いたら、きちんとプロポーズをしたいと考えている。
最初の結婚の失敗は彼を慎重にしていたが、もう悩みたくなかった。
大河内家が反対するのは目に見えていたが、それ以上に由香が欲しかった。
この前、キスを受け入れてくれたことが彼の自信になっていた。
(由香……)
その相手が柊一郎を誤解して傷ついているなんて、その時は想像もしていなかった。