あなたと私の恋の行方
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有給休暇をとらされたものの、由香は自宅のリビングでぼんやり過ごしていた。
平日にいきなり休んでも、特にすることを思いつかない。
いつもなら部屋を片付けたり料理したりと身体を動かすのだが、今日は何をする気にもなれなかった。
佐野部長からの電話は着信拒否した。
心配そうに母が声を掛けてくれるのだが、どうにも力が入らなくてぼんやりしたままだった。
夕方になって、千也君と千紘ちゃんが遊びに来てくれた。
「じゃーん! 由香、シャインマスカット買ってきたよ」
「ありがとう」
「反応薄いじゃない、由香ちゃん」
好物を目の前にしても、気分が盛り上がらない。
それどころか、ふたりの顔を見たら涙腺が崩壊してしまった。
突然有給休暇を取ったことを母が伝えたのだろう。
心配してわざわざ顔を見に来てくれたことが嬉しかったのだ。
「千也君、千紘ちゃん、わ、私……」
親にも言えなかった会社でのあれこれ、そして、佐野柊一郎部長とのこと。
それは私のキャパシティを遥かに超えてしまっていた。
「私、どうしたらいいんだろう」
「由香ちゃん、よく聞いて。ひとつずつ解決していけばいいからね」
幼い子どもに話しかけるような、優しい千也君の言葉は身に染みた。
「今、その酷い噂の出どころを確認してる。もしかしたら、僕たちがホテルで会ってたのが発端かも知れないんだ」
「噓でしょ。従兄と会ってたのが問題なの?」
千紘ちゃんが本気で怒っている。美人がキレると迫力がある。
「知らない人たちが見れば従兄だなんてわからないからね」
従妹を慰めただけなのに、男女の関係だと誤解するなんて酷い話だと千紘ちゃんの怒りはマックスだ。
「そこのところは、弁護士の千也に任せておきなさい」
「千紘ちゃん」
頼もしいふたりに励まされて、支えられて私は気持ちが楽になってきた。
「私は女子大時代からのネットワークで、佐野さんのことキチンと調べてあげる」
「でも……プライベートを調べるなんて」
千紘ちゃんが私の手をギュッと握ってくれた。
「噂に惑わされて、大切な人を失いたくないでしょ」
「大切な人?」
微笑を浮かべる千紘ちゃんに見つめられたら、心がじんわりと温まってくる。
「好きなんでしょ、佐野さんのこと。上司ではなくて、ひとりの男性として」
「私、好きになってもいいのかな。恋していいのかな」
また新しい涙が頬を伝ったけど、私の心から迷いは消えていた。