あなたと私の恋の行方
翌週になって有給休暇が明けた私は、再び森田社外取締役から呼び出された。
(もうこの会社にいる意味はない。ここでなくても、私は働いていける)
私のバッグの中には『退職願』が入っている。
この前のように、あまりに不当な扱いを受けたら辞表を提出する覚悟だった。
開き直ったぶんだけ、なんだか強くなれた気がする。
会議室に入ると、思ってもいなかったメンバーが揃っていた。
社外取締役や第一営業部長。新川早苗課長。それに、佐野柊一郎企画部長と小谷慎二さん。
それに、従兄の姿があった。
(千也君まで)
これはどういう状況なんだろう。
「西下君、そこに掛けなさい」
会議室とはいえ、私は被告のようだ。
正面には役員や部長が座り、窓際の席は新川課長と小谷さん。
廊下側に千也君がいるけど、難しい表情をしたままでニコリともしない。
「例の噂の件だが、思わぬ所から別の問題も指摘されてね」
第一営業部長が重々しく口を開いた。この人には役員の肩書きもあるし、次期常務かといわれている人だ。
「別の問題ですか?」
そこですくっと千也君が立ち上がる。
「弁護士の大河内千也と申します。今日は御社の佐野柊一郎部長からご依頼のあったパワハラ疑惑につきましてご回答いただきたく参りました。このような場を設けて頂きましてありがとうございます」
そこからは、千也君の独壇場だった。
弁舌爽やかに、過去の退社事例とその原因。退社した個人から聞き取った証拠等を、次々に提示していった。
新川課長の顔色はどんどん悪くなっていく。
流石の森田社外取締役も庇いきれないと思ったのか、新川課長に質す。
「間違いないかい、新川君」
新川課長は青い顔をしたまま無言で俯いた。それが答えのようなものだった。
「この問題は、こちらの西下由香さんへの誹謗中傷、名誉棄損問題にも繋がって参ります」
千也君は話を続ける。
「噂について詳細に調べましたところ、こちらの新川早苗さんがお父上の講演会が開かれたホテルで西下さんが男性と会っていたところを見かけたのが発端です。こちらが出回った写真です」
ピラリと写真らしきものを見せるけど、私からは中身がわからない。
「一緒におられたご友人たちは特に気にもしていなかったとの証言をいただいています」
弁舌爽やかな千也君の話しぶりに、会議室の中はシンと静まりかえっている。
「ところが、翌日になって新川課長が『西下由香が女を利用して、ホテルに男を誘い仕事を取っている』とそちらの、営業部長や社外取締役に話したそうですね」
新川課長はようやく顔を上げると、堂々と言い放つ。
「ホテルにいたのは、事実でしょ」
「残念ですね、確かに彼女はホテルのロビーにいました。従兄の私と一緒にね。この写真に写っているのは私です」
新川課長が大きく目を見開いて、千也君と私を見比べる。
今頃になって、ホテルにいた人物と目の前の弁護士が一致したのだろう。
それにどのパーツもまったく似ていないのだから、私たちが従兄妹とは信じられないみたいだ。
(わかっていても傷つく……)
私は心の中で呟いた。