あなたと私の恋の行方



大河内家では、銀座の高級店に並ぶようなフルーツや珍しい食材が使われることがあった。
食品を扱う会社を経営しているだけあって、食品を選んだり味わったりするのも仕事につながるのだろう。

両親から離れたことは寂しいかったけど、食事の時間だけは夢のようだった。

いつだったか千也君が買ってくれたシャインマスカットが美味しくて、『ひと房まるごと抱えて食べたい!』と話したら『食い意地が張っている』と大笑いされたことがあった。今となってはいい思い出だ。

シャインマスカットを丸ごと食べるとか、世界中の果物を食べ歩くとか、私にだって夢はたくさんある。
それなのに、つい臆病になってしまう。

心の中で願っているだけで、口に出して望みを言うことはできない。
祖父と伯父には『私は絶対恋愛結婚します』と宣言できないし、新川課長には『こんな仕事量は無理です』なんて言い返せない。

気が弱いというか、押しが弱いというか……二十六にもなると言うのに、この性格だけはどうしようもなさそうだ。



***



飲み会のお誘いを断った土曜日、予定があるというのは噓ではない。
祖父からお声がかかっていた、グループ企業のパーティーに出席する日だった。

これまでも従兄姉たちと一緒に顔を出しているが、会社の人たちは気が付いていない。
美しすぎるふたりがとても目立つから、私は目に入らないらしい。
だから壁の花とまではいかないが、料理をひたすら愛でることにしている。

今でこそ千也君や千紘ちゃんと平気でおしゃべりできるけど、一緒に暮らし始めたばかりの頃は大変だった。
ただでさえ豪華な大河内の屋敷で暮らすことに怯えてしまっていたから、従兄姉とはいえふたりのそばに並ぶのは緊張した。

広いお庭、いくつ部屋があるのかわからない屋敷、豪華な家具や調度品。
その中にピッタリ納まる華やかなふたり。自分とはかけ離れた世界だった。

そんな私を気遣ってくれたのか、従兄姉たちは気さくに話しかけてくれた。

『仲よくしてね』

従兄姉たちは大ざっぱな性格で、細かな作業は苦手らしい。
部屋の掃除を手伝ってあげたりレポートの資料集めを手伝ってあげたりしているうちに、どんどん仲よくなった。

やがて免疫ができたのか、美しい従兄姉と一緒にいても笑っていられるようになった。
むしろ三人でいるのが楽しくなったくらいだ。

今着ているパーティー用の装いも、ふたりにセレクトしてもらったものだ。

紺色のワンピースに、パールのロングネックレスを付けている。
ローウエストの切り替えは身長百六十センチ足らずの私が着ると似合っていないかもしれないが、ウエストが誤魔化せるから重宝している。

(千紘ちゃんと同じ美容院で可愛いシニヨンにまとめてもらったし、靴とバッグは、千也君からのプレゼント)

新米とはいえ弁護士はお給料がいいらしく、気前よくプレゼントしてくれた高級ブランド品だ。

祖父と伯父に挨拶したら、ホテル自慢のご馳走を堪能しよう。





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