あなたと私の恋の行方
お互いを知れば
(面白い子だったな)
こういうパーティーでは人脈作りも大切だが、柊一郎は人間観察も重要だと思っている。
食品関連の仕事をする以上、人より少しでも先を読まなくてはならない。
どの年代のどういう職種の人物がなにを求めているか、パーティーもそんなアンテナを張るひとつだ。
いつものように柊一郎は挨拶を交わしながら会場をゆっくり歩く。
ふと、料理のテーブル近くにいる女性が目に留まった。
特に美人でもないし、スタイルがいいわけでもない。
目立つようなタイプではないのだが、妙に気にかかる。
なんとなく観察しているうちに気が付いた。
ほとんどの客が飾り程度にしか見ていない料理の数々を、愛しそうに見つめているのだ。
吹き出しそうになった。
(年頃の女性にしては珍しいな)
きれいに並べられているイチゴの小さなタルトを、宝石店のショーウインドウのようにじっと見つめている。
(食べないのか?)
気になってそっと近付いたら、いきなり柊一郎の胸に飛び込むように振り向いてきた。
「いたっ」
柊一郎にはたいした衝撃ではなかったが、女性が顔面をぶつけたのだから文句を言われるのを覚悟した。
「大丈夫ですか?」
声を掛けたら、物凄く驚いた顔をした。
(俺、なにかしたか?)
思わずその肩に手を置いたら、顔を隠すように両手で覆ってしまった。
「……これ以上鼻は低くなりませんから」
自虐的な言葉を呟くと、その子は小走りでその場から去っていった。
その姿が子どもっぽくて、思わず声を出して笑いそうになった。
(チョッと可愛いな)
いつになく、その仕草や声が印象に残った。